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2018-10-26 00:00
中国本土の覇権と新興国について
真田 幸光
大学教員
一帯一路構想とアジアインフラ投資銀行(AIIB)のセット商品化により、これを推進、「ユーラシア大陸を席巻しながら、中国本土型標準をこれら地域に定着させ、じわじわと米国との覇権の力の差を詰めていこうとする。」と言う中国本土の国家戦略には周到なるものがあると私は見ています。しかし、一方で、最近では、ハンガリーを除くEU加盟国にこうした中国本土の一帯一路構想に対する警戒感も出てきています。また、15年ぶりに権力の座に復帰したマレーシアのマハティール首相も、「一帯一路」関連の発言で、「マレーシアの東海岸鉄道(ECRL)事業、パイプライン事業など一帯一路関連のプロジェクト3件を中止する。」と表明した上で、中国本土の戦略を、「貧しい開発途上国を債務の罠に陥らせる一帯一路を“新植民地主義”である。」とコメントしています。
こうした中、中国本土では最近、一帯一路に対する宣伝報道が増えているように思います。習近平首席は一帯一路5周年座談会で、「一帯一路は域内国家がウィンウィンの関係を築き、運命共同体をつくろうとするものであり、各国が中国本土には異なる意図があるとおとしめているが、経済的覇権は追求しない。」と述べ、中国本土の公式メディアはそれを大々的に報じています。また、欧州に警戒感が強まる中、中国本土はアフリカに目を向けようとしているとも見られますが、中国中央テレビ(CCTV)は、「アフリカの発展を支援する一帯一路を新植民地主義と非難するのは荒唐無稽である。」とするボツワナ大統領のインタビューを放映し、公式メディアを動員し、一帯一路構想の正当性を訴えています。
しかし、こうしたアフリカの既得権益層は、中国本土から利権の一部を甘い汁として与えられている可能性も否定できません。実は、一帯一路はこの5月に行われたマレーシア総選挙で大きな争点であり、中でもECRLは注目されていました。ECRLはマレー半島北東部のタイ国境地域から東海岸の主要都市を経て、西部のマラッカ海峡沿岸にあるクラン港まで延びる総延長688キロメートルの計画であり、経済的に遅れた東海岸地域を開発する狙いでナジブ前首相が推進したもので、2016年には総工費の85%を借り入れる条件で、中国本土国有企業の中国交通建設が工事契約を結び、昨年7月に起工式が行われたものでしたが、そのナジブ前首相は汚職が取り沙汰され、前述したように、中国本土から甘い汁を吸わされていたかもしれないのです。そして、ECRLの最大の問題点は経済性にあり、当初70億米ドル程度と予想されていた総工費は、契約時点で130億ドル以上に膨らみ、最近では隠れた工事費用まで含めると、総工費が200億米ドルに達するとの発表もありました。70億米ドルでも経済性が不透明なのに、総工費が200億米ドルまで膨らめば、返済不能となり、ここで、中国本土が債権者の立場を背景にマレーシアの港などを租借したいなどと言われれば、マレーシアはひとたまりもありません。マレーシアの政府債務は昨年時点で2,400億米ドルであり、国内総生産(GDP)の80%を超えているから更に心配であります。
また、この一帯一路はアジア、欧州、アフリカにかけ、大規模にインフラを整備し、新シルクロード経済ベルトを構築するプロジェクトであり、習国家主席が力点を置いており、中国本土は韓国をはじめとする80カ国余りを引き入れ、AIIBを設立し、資金調達もしながら推し進めようとしています。しかし、これまで工事全体の89%を中国本土企業が受注するなど、中国本土偏重で推進されており、インフラ整備先の国が過度の負債で財政危機に追い込まれるなど多くの問題が浮上し、債務負担に耐えられなくなったスリランカは、ハンバントタ港の運営権を99年間にわたり中国本土に認めました。中国本土が英国にやられ、香港を99年間租借しなくてはならなくなったとの経験をこうした形で利用しているとも見られる典型的な出来事となりました。また、中国本土は9月初め、アフリカ53カ国の首脳を北京に集め、600億米ドルに達する大規模な経済支援を約束しましたが、中国本土の真意はどこにあるのか?アフリカやその他新興国のリーダーには、目先の利益や私服を肥やすことに目を向けずに客観的、論理的に対応して頂きたいものであります。
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