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2018-10-25 00:00
(連載2)NAFTA⇒USMCAに思う
緒方 林太郎
元衆議院議員
自動車の話に戻ります。自動車関連ではサイドレターが付されました。通商法の安全保障条項の発動(セクション232)で25%の関税を課す場合でも、メキシコとカナダはそれぞれ年260万台までは無税で輸出できることになりました。この260万台という水準は、現在のカナダの自動車生産台数(200万台)、メキシコからアメリカへの輸出台数(180万台)のいずれよりも上なので実害はないというのが米紙の論調です。260万台までは関税を掛けない、それ以上は25%という感じですので、この安全保障条項の発動は、何となく「関税割当」の導入や「セーフガード」の設定と似ています。
公開情報をベースに少しだけ詳し目に書いてみました。何故なら、これが日米FTAの下敷きになりそうだからです。このUSCMAは法的には新協定であり、NAFTA改正ではないと思います。ただ、下敷きはNAFTA+TPPで、それに新チャプターを加えたというイメージで良いでしょう。かなり変更点はありますが、すべてを再交渉したわけではありません。つまり、日米FTAもゼロから交渉するブランド・ニューな協定ではなく、TPPを下敷きにした上で、それに出し入れをしていくイメージを持った方が良いように思います。
NAFTA⇒USCMAについて盟友、福島伸享さんとやり取りをしていて、「USMCAは自由化の後退だと思うが、WTO協定的にどうなんだ?」という話になりました。WTO協定の基本理念は「自由化を常に前進させる」というものでして、例えば、日本がある品目について譲許税率を上げようとすると、その品目を日本に輸出している関係国に対して、全体としての自由化率を下げないために他の品目で追加的な自由化を要求されます。簡単に言うと、日本がコメの関税を上げようとすると、「では、対価として小麦の関税を下げてください」という(正当な)要求がやって来るというのがWTOの基本的なルールです。(外務省時代、色々な国会議員から「〇〇の関税上げて保護しろ。」という要求がありました。上記の理屈を説明した上で「相手国に提供する対価を探してきていただけるのであれば考えられなくもありませんが。」と言ったら、大体黙っていただけました。)
しかし、WTO協定の自由貿易協定に関する規定では、「一旦成立したFTA(NAFTA)の自由化が後退したらどうするか。」という規定がありません。そもそもが「関税その他の制限的通商規則がその構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止」されるものですから、一旦成立した後に自由化が後退する事が想定されていないのです。ただ、こういう事を許していたら、GATT/WTO体制はどんどん崩壊していきます。GATTの前文は「(抜粋)貿易及び経済の分野における締約国間の関係が、生活水準を高め、完全雇用並びに高度のかつ着実に増加する実質所得及び有効需要を確保し、世界の資源の完全な利用を発展させ、並びに貨物の生産及び交換を拡大する方向に向けられるべきであることを認め、関税その他の貿易障害を実質的に軽減し、及び国際通商における差別待遇を廃止するための相互的かつ互恵的な取極を締結することにより、これらの目的に寄与することを希望して」とあります。今回のNAFTA⇒USMCAの動きはこの理念に反していると言えるでしょう。そこは日本を始めとする主要国でアメリカに強く言っていくべきではないかと思います。そういう理念系からスタートする議論を国会には望みたいですね。(おわり)
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