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2018-10-24 00:00
(連載1)NAFTA⇒USMCAに思う
緒方 林太郎
元衆議院議員
トランプ大統領が主導する形で、アメリカ、カナダ、メキシコの新通商協定(USMCA)が合意されました。トランプ大統領の言葉を借りれば「NAFTA修正(NAFTA redone)」ではなく、新協定です。なんとなく、トランプ大統領はムチャクチャやっているように見えるでしょう。しかし、実は今のトランプ大統領のやり方は「元々アメリカは今のような仕組みをある程度志向していた。」と言えると思います。典型的なのは、かつて、ブッシュ父やクリントン政権の時代に有名になった「スーパー301条」です。あれは「他国の貿易慣行を不公正ではないかと思ったら調査に入る。調査の結果、不公正だと認定したら制裁を打つ。」という内容のものでした。大体、当時も「調査」が入る段階でビビって貿易慣行を改めるというのが常でした。トランプ大統領の手法は、それを若干恣意的に運用している事と、脅しが露骨に入ってくる事だけでして、基礎的な構造は昔から同じです。
さて、今回のUSMCAでは、北米での自動車原産地規則が厳格化された(62.5%⇒75%)、自動車生産の一定割合(40%)は時給16ドル以上の労働者によって作られなくてはならない、といった内容の話が入っています。時給16ドル以上の労働者なんてどうやって確認するのだろうか、個々の自動車について検証できるのだろうか、と私個人としては首を傾げてしまいます(実際、どうやって国内実施法を作るかで連邦議会は悩み始めているようです。)。面白いものとしては、小麦のグレードに関する合意があります。アメリカの小麦農家に言わせると、カナダに輸出すると自動的にアメリカ産は最低価格帯に位置付けられてしまうそうで、これに不満を抱えていました。これを踏まえ、カナダ市場において、アメリカ産とカナダ産は同等に扱う事という内国民待遇の厳格化が盛り込まれていました。面白いなと思いました。
乳製品が過剰気味なアメリカは、カナダの乳製品市場開放を強く求めて来ました。カナダにおける乳製品問題というのは、酪農の中心地であるフランス語圏のケベック州問題とかなり重なる所があります。乳製品で下手な譲歩をすると、(自分達は普段から英語圏に不利な待遇を押し付けられていると思っている)ケベック州に強い遠心力が働く事になります。なので、昔からカナダは乳製品については、関税引き下げという形での自由化よりも輸入枠の拡大で対応する事が常でした。今回、TPPでの輸入枠を超える枠(市場の3.5%)がアメリカに提供されるそうです(とアメリカは言っています。)。カナダ政府は、不利益を被る酪農農家への補助金を提供すると言っています(カネでの解決)。それ以外にも乳製品のクラス分けでの規制がアメリカに不利になっているので、それを改めさせたようなのですが、私はそこまで乳製品産業に詳しくないのでよく分かりませんでした。
あとは米加間で「意外に大きいテーマなんだな。」と思ったのは「紛争解決制度」です。カナダは、木材等に対するアメリカのアンチダンピング課税に苦しんでおり、それを公平な立場から解決するNAFTAの制度を維持する事に懸命でした。アメリカの姿勢は完全にジャイアン状態でして、自国の決定をそのまま押し付けられるように紛争解決制度を失くそうとしていました。さすがに結果としては大きな変化は無さそうです。ただ、アメリカがNAFTA協定に規定された紛争解決制度を潰そうとして来た事は記憶に留めておいた方がいいでしょう(実際、メキシコとの間では廃止されたはず)。(つづく)
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