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2018-10-23 00:00
(連載2)日米貿易摩擦から中国が学んだこと
六辻 彰二
横浜市立大学講師
これに拍車をかけているとみられるのが、トランプ政権の特徴だ。貿易戦争に限らず、トランプ政権の外交には「自分もリスクがあるなかで敢えて相手に無理難題をふっかけて譲歩を迫る」というパターンがある。これに最もうまく対応してきたのは北朝鮮だといえる(だからといって北朝鮮を擁護するわけではない)。2017年の米朝間の緊張は、もともと北朝鮮が核・ミサイルを開発したことに大きな原因があるが、トランプ政権が全面的な経済制裁だけでなく、軍事力の行使さえも示唆しながら「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」という、北朝鮮が呑めるはずもない要求をしたことでエスカレートした。この際、「北朝鮮が折れる」という楽観的あるいは強気の観測もあった。しかし、実際には、北朝鮮は「一方的な核廃絶には応じない」という姿勢を維持することで、実際には軍事行動に踏み切れないアメリカを立ち往生させ、それと並行して韓国などを巻き込みながら緊張を和らげる方向に転じ、結果的に6月にシンガポールでの「何も決めない」米朝首脳会談に持ち込むことで、身の安全を確保することに成功した。
この北朝鮮の行動は、世界に「強気で臨んでくるトランプ政権に対処するには、逆に強気で臨んでデッドロックに持ち込むことで、トランプ政権を困った状況に追い込むのが効果的」という一つの解決策を示したことになる(何度も言うが、だからといって北朝鮮を賞賛しているわけではない)。トランプ氏が歴代政権以上に、支持者向けの、わかりやすい「明確な勝利」を設定する傾向が強い以上、圧力を受けても踏ん張り続け、「明確な敗北」にさえならなければ、むしろトランプ政権の方が具合が悪くなりやすいことは、北朝鮮の選択の効果を高めたといえる。
だとすると、中国の選択も不思議ではない。もともと中国には、人権侵害などに関するアメリカなどからの外圧に対して強気で臨む傾向が強かったが、トランプ政権のこの特徴を踏まえれば、貿易戦争で一歩も引かない対応は合理的ともいえる。もちろん、トランプ政権から圧力をかけられた時、各国がこれに対抗すれば、貿易戦争が世界的に広がり、どの国にとっても貿易から得られる利益が収縮することになる。中国も同様で、貿易戦争を収束させられればそれに越したことはない。その意味で、アメリカからの圧力に張り合うことは、置かれた環境のなかで合理的な判断だったとしても、それが最上の結果を約束するとは限らない。「貿易戦争に勝者はいない」といわれる所以である。とはいえ、トランプ政権から貿易戦争をしかけられた場合、「我が国の企業の進出がアメリカで雇用を生んでいる」などの理性的な呼びかけがポピュリスト相手に無力で、圧力をかわし続けることに限界があり、ましてその要求に一方的に合わせられないのであれば、圧力に譲らないなかで着地点を探すしかない。つまり、勝てないまでも負けない選択が不可欠といえる。
トランプ氏から次の標的として名指しされている日本にとって、これは他人ごとではない。1980年代と比較して、日本の輸出に占めるアメリカの割合は低下しており(IMFによると2017年段階で19パーセント)、これはリスクヘッジとも呼べるが、政治的な意志によるというより、中国など新興国との取り引きの増加によって生まれた結果にすぎないともいえる。だとすれば、誰より日本自身が、日米貿易摩擦の教訓を見直す時期にきていることになるだろう。(おわり)
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