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2018-10-17 00:00
(連載1)憲法9条1項における「国際紛争」
緒方 林太郎
元衆議院議員
憲法改正の中で、やはり9条が焦点になるわけですが、概ねの相場観として「9条1項(日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。)はいじらない」となっています。それに反対するわけではないのですが、この9条1項の論理的帰結としておかしな事が起こっているという事は知っておいてほしいと思います。それは「国際紛争」という言葉です。これは「国家又は国家に準ずる組織の間で特定の問題について意見を異にし、互いに自己の意見を主張して譲らず、対立している状態」を指すとされています。
そして、ここから法令で使われる「武力紛争」が出て来ます。法令上の定義はありませんが、答弁書等では「国家又は国家に準ずる組織の間において生ずる武力を用いた争い」とされています。南スーダンPKOの際に、この概念がとても議論になりました。サルヴァ・キール大統領率いる政府軍に対抗するリエク・マシャール元副大統領派の位置付けがPKO法上、問題になったのです。「マシャール派は国家又は国家に準ずる組織でない。したがって、PKO法上の武力紛争は存在しない。」という説明になったわけです。そのメルクマールとしては、「支配地域が無い」、「系統だった組織が無い」というものが挙げられていました。(そして、武力紛争が無いと法令上の「戦闘行為」が存在しない事になります。何故なら、戦闘行為は「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為」と定義されるからです。)
何故、そうしたかと言うと、PKO五原則(1.紛争当事者の間で停戦合意が成立していること、2.国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること、3.当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。以下略)には「紛争当事者」という言葉が出て来ます。武力紛争があるという事になると、紛争当事者が居る事になります。そうすると、PKO五原則に抵触するおそれが高まって来るのです。
なので、マシャール派は「国家又は国家に準ずる組織ではない」と言い切ってしまわないと、即時に撤収となってしまうわけです。逆に言うと、マシャール派はPKO法上は「(紛争当事者としては)存在しない」事になっています。ここが大問題なのです。このままだと、「支配地域が無い」、「系統だった組織が無い」ゲリラ組織なのだが強力な重火器を持っている組織が、散発的に、しかし強烈な攻撃をしてくるとか、ジェノサイド的な事を行うとかしたとしても、武力紛争は無いでしょうし、PKO五原則の範疇にも入ってきません。(つづく)
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