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2018-10-12 00:00
日米共同声明と日米物品貿易協定
緒方 林太郎
元衆議院議員
2018年9月26日の日米首脳会談で出された共同声明を読んでみました。まず、結論から言っておくと「全体としてよく出来ている」と思います。私は個別品目(自動車、畜産品)でもっと押し込まれると思っていましたが、よく交渉しました。現時点では、巨大ハリケーンを災害無しでやり過ごしたと言っていいでしょう。逆に「こんな具体的なタマに至らない内容でトランプ大統領がよく納得したもんだ。何か裏にあるのかな。」とすら疑いたくなるくらいです。この声明に基づいて、日米物品貿易協定(TAG)の交渉がスタートします。焦点となる共同声明の「5.上記協定は、双方の利益となることを目指すものであり、交渉を行うに当たっては、日米両国は以下の他方の政府の立場を尊重する。日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること。米国としては自動車について、市場アクセスの交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること。」の部分は、ケチを付けようとすれば「『尊重する』というのは、絶対にそうなるという事を義務的に担保するものではない。」とか、「『最大限』の所が少し曖昧さが残る。」とか、色々あり得るわけですが、それを言い始めたらキリがありません。「よくこの程度で収めたな。」と言っていいでしょう。
ただし、安倍総理が「これまで日本が結んできた包括的な自由貿易協定(FTA)とは全く異なる。」と言っているのは、かなり錯誤を起こさせるような言い方です。「虚偽」に限りなく近いです。ここはTAGが「日米FTA」と見られてしまう事を恐れるがあまり、苦し紛れっぽい言い方をしています。まず、安倍総理は多分、「日本がこれまでやってきた自由貿易協定は、関税の分野のみならず投資などの幅広い経済課題をテーマとしてきた。今回のTAGはそういうものではなく、物品の市場アクセスだけにフォーカスを当てるのであるから全く異なる。」と言いたいのでしょう。それはきっと間違いではないです。
しかしです、そもそも自由貿易協定の中核というのは「関税その他の制限的通商規則」の廃止です。これをやるから「自由貿易協定」なのです。この部分が無いものは、そもそも自由貿易協定とは呼びません。世界貿易のルールを成すGATT協定においては、一番最初に最恵国待遇が書いてあります。簡単に言うと、「日本がアメリカに関税を下げたら、その関税率はすべてのGATT加盟国に適用しなくてはならない。国によって関税率を差別しちゃダメですよ。」という事です。これがGATT・WTOの世界の基本中の基本です。しかし、例外が認められています。一般的例外(GATT20条)、安全保障例外(GATT21条)、関税同盟及び自由貿易地域(GATT24条)が主たるものです。ただし、一般的例外や安全保障例外は極めて特殊な事情でしか適用が無いので、この文脈では考慮から外していただいてOKです。
最恵国待遇の例外として、GATT24条で「本当は国によって関税率を差別しちゃダメだけど、経済圏が一体になるくらい関税等の障壁を取り除くのであれば、それは例外として認めてあげましょう。つまみ食いで関税下げというのはダメですよ。」という事になっています。その取り決めが自由貿易協定なのです。このやり方以外で、最恵国待遇で譲許した関税率を超えて、日米で自由に関税を下げる事が出来るツールは、現在のGATT・WTOルールの中には存在しません。したがって、物品で何らかの関税引き下げ交渉をするのであれば、GATT24条に従って「関税その他の制限的通商規則がその構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止」される事を目的とする協定を作るしかないのです。つまり、TAGでは交渉する分野については「包括的」ではないでしょうが、関税分野の交渉についてはすべての品目についてみっちりと「包括的」にやる以外無いのです。その点についてはTPP、日EU経済連携協定、日豪・・・、どの自由貿易協定とも変わりがありません。どうも、安倍総理の発言を「限られた品目だけで関税交渉をする」かのように誤解しているメディアが多く、「日米FTAじゃないんですよ。」と売り込みたい政権の思惑をそのまま代弁しています。しかし、GATT・WTOに従う限りは、関税交渉部分は「フルマックスの日米FTA」にならざるを得ません。
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