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2018-10-02 00:00
(連載1)「一帯一路」日中協力で日本が留意すべきこと
三船 恵美
駒澤大学教授/GFJ有識者メンバー
省庁横断・官民合同で議論する「日中民間ビジネスの第三国展開推進に関する委員会」の初会合が、9月25日に北京で開催された。同委員会は、今年5月に中国の李克強総理が来日した際、日中両政府が合意して設けられた。同会合では、第三国でのインフラ整備協力などが議論された。昨秋の日中首脳会談を「日中関係の新たなスタート」と位置づける日本政府は、中国の「一帯一路」への支持を昨年打ち出した。今年10月の安倍晋三総理大臣の訪中時には、「一帯一路」を念頭に第三国における日中協力事業についての「フォーラム」が開かれる。日本のメディアは「一帯一路」を広域経済圏構想と喧伝するが、経済的な側面は「一帯一路」の一面でしかない。今年8月27日の「一帯一路」建設推進政策5周年座談会における習近平中共総書記の「重要講話」でも示されたように、「グローバル・ガバナンス体制の変革を後押しするもの」として位置づけられており、中国が主導する国際秩序形成を意味する「人類の運命共同体」の構築という目標実現に向かうための「重要な実践プラットフォーム」である。つまり、「一帯一路」には、「中国規格」を広めながら現在の国際経済秩序を変えていくためのツールという面がある。また、ジブチの事例から、「一帯一路」に軍事的な戦略も組み込まれていることが明らかである。対外債務の8割を中国が占めているジブチで中国初の海外補給基地が設立されたが、昨年夏にアメリカのストラトフォー・ワールドビューが公開した衛星写真の分析によれば、「航空作戦能力を備えている同基地」は、「海賊対策や人道支援の拠点以上に要塞化」された構造から、「将来的な外洋艦隊の編成や海軍以外の用途での使用の可能性」も示唆されている。
「一帯一路」で日中が協力する第三国として、東南アジア、中東、アフリカの国が報道されている。しかし、「一帯一路」がインフラ投資の対象国にもたらしている過剰な債務負担に世界で警鐘が鳴らされている。今年4月12日には、IMFのラガルド専務理事が、「一帯一路」によるインフラ投資はフリーランチではない、と警告した。その前月には、アメリカのシンクタンク「世界開発センター(CGD)」が、「一帯一路」参加国の債務状況についての調査結果を公表し、債務返済が難しい23カ国を指摘していた。また、中国政府は南南協力を通じて途上国におけるSDGs(持続可能な開発目標)達成に貢献すると表明しているものの、SDGsの思想的背景である「人権・民主主義・グッドガヴァナンス」と「一帯一路」が整合しているとは言い難い。さらに、「一帯一路」の債務問題は、資源が豊富な国や地政学的要地にある国々だけの問題ではない。中国自身の積み上がった巨額の債務問題=「中国の債務の長城(China’s Great Wall of Debt)」も看過できない問題である。「一帯一路」による「債務の罠」と「中国の債務の長城」への警戒が世界で高まるなか、日本政府は「一帯一路」での第三国協力を進めようとしている。果たして、第三国における日中協力は、日本にとって、国際関係のパラダイムにおける「Win-Win(双方が望ましい結果を得る)」の関係になるのだろうか。それとも、「Lose-Win(相手国の利益・幸福のために自国を踏み台にする)」になるのだろうか。
日本政府は日中関係が「正常な軌道に戻った」と強調する。しかし、北海道胆振東部地震の翌日の9月7日、中国海警の公船4隻が沖縄県尖閣諸島の魚釣島沖で日本領海に侵入していたという中国の対日姿勢をニュースで目にすると、「日中関係改善」と言われたところで、「どこが?」と訝しがる日本人は少なくないだろう。第三国における「一帯一路」への日本の協力は、果たして、日本の利になるのだろうか?アフリカを事例にとりながら考えていこう。近年、アフリカにおける中国プレゼンスの拡大は著しい。例えば、アフリカの輸出シェアの変化をみてみると、2001年に中国3.3%、日本3.0%だったのが、2016年には中国10.4%、日本1.6%となった。また、アフリカの輸入シェアの変化をみると、2001年に中国3.7%、日本4.2%であったのが2016年には中国16.6%、日本2.2%となった。2017年まで9年連続で、中国はアフリカの最大貿易相手となっている。2015~2017年の中国の対アフリカ投資は約30億ドル前後で、2003年値の約40倍の規模に拡大した。中国プレゼンスが大きいアフリカでの「一帯一路」協力は、日本の費用対効果を相対的に低くしてしまう。国連の大票田であり資源が豊かなアフリカにおける日中協力は、中長期的にみれば(日本の人口動態とそれによる財政構造の変化から推測しうる対外影響力の縮小から考えれば)、日本にWin-WinよりもLose-Winをもたらすことにはならないだろうか。(つづく)
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