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2018-09-28 00:00
(連載2)外国の分断も煽るトランプ大統領
六辻 彰二
横浜市立大学講師
しかし、この数字には批判や疑問もある。南アフリカ警察の統計によると、2015~2016年の殺人発生率は南アフリカ平均で10万人中34.1人だが、南アフリカ警察の統計にはそもそも「農園における人種ごとの殺人」というカテゴリーがない。そのため、南アフリカのシンクタンク、アフリカ・チェックは「白人農園主の殺害」のカウントがほぼ不可能と指摘し、アフリフォーラムのデータの正確性を疑問視する。また、在南アフリカ・アメリカ大使館も、周囲から隔絶された農園で殺人が目立つことは認めながらも、「特定の人種が政治的な理由で特に標的にされている証拠はない」と報告している。少なくとも異論がある以上、FOXニュースが当事者であるアフリフォーラムの言い分だけを報じることは公正さに欠ける。これは番組制作の公正規範が廃止されたアメリカで、テレビ局の報道がイデオロギー的なものになりやすいことを端的に示す。バイアスが強すぎるだけでなく、トランプ政権が横から口を出すことは、ただでさえ微妙なハンドリングが求められる南アフリカの土地改革を、さらに難しくしかねない。
白人の土地の補償なしの収用を可能にしようとしている一方、ラマポーザ大統領はそれが「秩序立って行われる」ことが重要だと強調している。つまり、多数の支持を背景に法的根拠を得ても、実際に問答無用で白人の土地を取り上げるわけではない、というのだ。ここに、南アフリカ政府の難しい立場を見出せる。南アフリカでは白人が全てを握り、黒人には全く権利が保障されない人種隔離政策(アパルトヘイト)の終結にともない、1994年に発足した黒人政権のもとで、企業などに黒人の雇用枠が設けられた一方、白人の財産は保護された。黒人が憎しみと数の力にものを言わせて白人の財産を没収すれば、良くも悪くもそれまで経済を切り回していた白人が南アフリカを離れることは目に見えていたからだ(実際、南アフリカの隣国ジンバブエでは、1999年から黒人政権が白人の農地を補償なしで収用し始め、それが同国の経済危機の導火線となった)。だからこそ、アパルトヘイト終結後、初の黒人大統領に就任したネルソン・マンデラは、白人への憎しみに固まっていた支持者たちに「赦し」を説き続け、希望する白人の土地のみを買い上げの対象とする、あくまで自由意志に基づく農地の再分配システムを導入したのである。
しかし、自由意志に基づく分配は遅々として進まなかった。そのうえ、政府高官の汚職、インフレの加速、格差の拡大など、さまざまな不満のタネが大きくなるなか、先述の今年2月の南アフリカ議会における白人の農地の無補償収用のための憲法改正の動議は、マルクス主義政党「経済的自由の戦士(EFF)」によって提出された。これに、支持が低迷していた与党ANCも便乗したことで動議は可決された。こうしてみたとき、白人の農地収用問題が黒人、とりわけ貧困層のフラストレーション解消の手段となっていることは確かで、ここに白人の不満を糾合したトランプ政権との類似性を見出せる。実際、EFFを支持する黒人貧困層からは「アフリカは黒人のものだ」という排他的な主張が堂々と聞かれるようになっている。とはいえ、ジンバブエの二の舞を避けるために南アフリカ政府は、一方では補償なしの収用を可能にする法改正を進めながらも、もう一方でできるだけ強制的ではなく実行しなければならない、という離れ業を演じる必要に迫られている。
だからこそ、歴史的に因縁の深いイギリス政府だけでなく、アメリカの影響の強い国際通貨基金(IMF)までもが南アフリカの土地改革を支援する方針を打ち出しているにもかかわらず、一方の当事者にだけ(ラマポーザ氏に言わせれば「この国に来たこともないのに」)肩入れするトランプ大統領の発言は、アフリフォーラムなどの白人団体を活気付かせ、事態をより難しくしやすくするものである。ニクソン政権とフォード政権で国務長官などを歴任した稀代の外交官ヘンリー・キッシンジャーは「外交とは力を制動する技芸である」と記した。動機づけはさておき、ラマポーザ大統領も、力をもっても力ずくにならない道を探らなければならない点では変わらない。白人であれ黒人であれ、あるいはその他の人種であれ、身びいきに徹する人種差別主義は、創造的チャレンジを阻害する以上の意味をもたないのである。(おわり)
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