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2018-09-05 00:00
(連載2)憲法改正における防衛関連条項
佐藤 有一
軍事評論家
しかしながら、憲法9条によって日本が戦争に巻き込まれなかったことをもってして、それを平和憲法と称して守ることのみを主張する立場には賛同できません。それは日本を取り巻く国際環境が変化しているためです。特に1989年の冷戦終結以降の変化は急激であり、それまでは考慮しなくて済んでいた新たな安全保障上の脅威が出現しているからです。憲法9条は憲法改正の主要論点となっています。日本の安全保障に直接かかわることですから、私達は国会における憲法改正の動きを注視するだけでなく、知恵を絞って改正の必要性、改正条文の内容、条文の解釈の適否などを議論していく必要があると思います。
第4に評価すべき条項は「国際協調主義」を明記した憲法前文と憲法98条2項です。憲法前文には「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と記述されています。憲法98条2項には「締結した国際条約は確実に尊守すること」と示されています。これは日本が国際社会の構成員として積極的に協調的な役割を果たしていくことを宣言したものです。憲法の基本原則「平和主義」をこの国際協調主義に当てはめていくと、平和主義を積極的に国際社会に広めていく役割を日本が担うことに繋がっていくはずです。これは「積極的平和主義」に他なりません。
自民党の憲法改正草案には「緊急事態条項」があります。大規模な自然災害および外部からの武力攻撃とそれに伴う内乱などの社会秩序の混乱が発生した時に、政府に権限を集中させ、国民の権利を制限できるようにするという内容です。政府に法律と同じ効果を持つ政令を制定できる権限を与えるとしています。これについては、緊急事態になれば政府が必要に応じて政令を独自に制定できるようになるのですから、政府による独裁を招きかねないという危惧が存在します。戦前の国家総動員法が連想されるからです。国家総動員法は戦争遂行のために必要な全てのものを政府の統制下に置こうとしたもので、当然現在の憲法にはそのような条項はありません。新しい「緊急事態条項」を憲法に加えなくても、自然災害と武力攻撃に対処するための法律は現在の法体系の中に存在しています。災害対策基本法や自衛隊法などには、対処のために必要になった土地や家屋の収用、道路上に放置された車両の移動など国民の権利をある程度制限できる条文もあります。現行法であればこそ自然災害や武力攻撃を想定した訓練や演習を行うことも可能です。その結果、法律の不備が見つかれば修正したり新しい法律を加えていけばよいのです。このような実際の緊急事態に則した準備こそが、緊急事態に対する国としての備えになると思います。したがって緊急事態に対処するためには、国民の誤解を招くような「緊急事態条項」を憲法に加えるのでなくて、現行法で対処すべきです。
日本国憲法は他国の憲法と比較して改正のハードルが高い憲法として知られています。衆参両院において議員の所定人数(衆議院100人、参議院50人)以上の賛成で改正原案が衆議院と参議院それぞれに提出され憲法審査会で審査されることになります。識者らの意見を聞く公聴会も開かれます。憲法審査会で審査して過半数の賛成があれば本会議に送られて、さらに議員の2/3以上の賛成で憲法改正が発議され、60~180日の準備期間を経て国民投票にかけられます。ここで投票数の過半数の賛成があれば成立となります。しかしながら、このような憲法改正の手順の中でいくつかの懸念されることがあります。憲法審査会における審査で、改正原案の内容に基づいた正常な議論がなされるか明確でないことです。現在の憲法審査会の活動はどう見ても活発とはいえません。改正反対派の委員が改正を阻止しようとして審査に応じないことは容易に想像できます。とはいえ、審査委員は国会の各政党の議員数に比例して配分されますので、結局多数を占める政党の望む方向で審査され可決されるでしょう。ところが、この審査の様子は当然公開されますので、政治的な駆け引きを混じえた強引な審査が国民に悪い印象を与えるかもしれません。それとは逆に改正に反対する政党による無意味な審査引き延ばしも国民投票に影響を及ぼすことでしょう。このようなことでは正常な憲法審査が行われたとは言えません。(つづく)
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