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2018-07-26 00:00
(連載1)北朝鮮が日本国に要求する“過去の清算”とは?
倉西 雅子
政治学者
7月3日、北朝鮮は、朝鮮中央通信を通し、日本国に対して‘過去の清算’を要求したと報じられております。果たして、同国が要求する‘過去の清算’とは、一体何を意味するのでしょうか。北朝鮮が‘過去の清算’という言葉を使う時、最初にイメージされるのは、日本国による朝鮮半島併合によって生じた被害に対する賠償要求です。1965年の日韓基本条約、並びに、日韓請求権協定の前例があるため、日本国内でも、北朝鮮に対しても同程度の経済支援をすべきとする見解が広まっています。しかしながら、この問題、原点に返って考えて見ますと、極めて奇妙な要求なのです。
国際法に照らしますと、北朝鮮には、日本国に対して“過去の清算”を要求する法的な権利がありません。日韓請求権協定締結の発端は、サンフランシスコ平和条約の第4条にあり、同条約の第2条で日本国が朝鮮の独立を認めたため、双方の国家、並びに、国民間の財産に関する請求権を処理する義務があったからです。言い換えますと、日韓交渉における当初の‘過去の清算’とは、日韓双方の実質的な被害に基づいて財産上の問題を解決することを意味したのです。
こうした財産権の相互処理は、第一次世界大戦においてオーストリア・ハンガリー帝国から中東欧諸国が独立した際にも用いられており、国際法上の一般的な解決方法に従ったものでした。日本と朝鮮半島との関係は、どちらかと言うと、アジア・アフリカにおける本国とその植民地という関係よりも、オーストリア・ハンガリー帝国といった同君連合からの異民族国家の独立に近かったのではないでしょうか(韓国併合条約では、‘韓国皇帝の日本天皇への統治権の譲与’としている)。
ところが、韓国側は、日韓交渉を日本国の‘植民地支配’に対する償いを要求する場として利用しようとします。日本側は、朝鮮半島におけるインフラ等の残置財産を清算に含めようとしますが(同条約は、残置財産の処分権は中国にのみ認めている…)、結局、平和条約第4条(2)に、日本国は、「米軍政府により、又はその指令に従って行われた日本国およびその国民の財産処理の朝鮮半島でとった効力を承認する」とする一文があり、また、冷戦を背景に韓国支援の必要性も強く認識されたことから、当時のアメリカ政府が韓国の要求を半ば認める形で、財産権の相互放棄と日本側の一方的な経済支援が決定されたのです。ただし、日韓請求権協定ではあくまでも経済支援とし、‘植民地支配’の償いとする立場は採らなかったのです。(つづく)
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