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2018-07-24 00:00
(連載1)米中貿易戦争が示すアメリカの黄昏
六辻 彰二
横浜市立大学講師
7月6日、アメリカ政府は340億ドル相当の中国製品に対する関税を25パーセント引き上げ、中国政府は即日これの対抗措置として、やはり340億ドル相当のアメリカ製品の関税を引き上げた。トランプ大統領は関税引き上げの対象が最終的に5000億ドルにのぼる可能性を示唆しており、追加関税の応酬は今後も続くことが懸念される。ヒト、モノ、カネが自由に行き来するグローバル化は、アメリカが作り出した秩序だ。今回の貿易戦争は、アメリカ自身が作り出したこの秩序を、一部とはいえ破壊しようとするトランプ政権と、この秩序を有効活用しようとする中国の間の争いといえる。その争いは双方に大きな損失をもたらすだけでなく、貿易戦争の勃発そのものが超大国の不在を象徴する。
トランプ政権は世界貿易機関(WTO)の規定で定められる上限を越えて関税を引き上げることを可能にする法案を作成していると報じられている。これが事実なら、世界全体で共有されるルールや原則を、アメリカの国内法だけで否定する試みといえる。しかし、トランプ政権が否定しようとしている、WTOによって支えられる自由貿易体制は、もともとアメリカ自身が作り出したものだ。第二次世界大戦末期の1944年、名実ともに超大国の座をイギリスから引き継いでいたアメリカは、連合国の代表をアメリカのブレトン・ウッズに招聘。このブレトン・ウッズ会議で戦後の秩序に関する議論を主導した。この会議での議論にもとづき、1947年にはWTOの前身となる「関税と貿易に関する一般協定」(GATT)が成立。段階的に関税をお互いに引き下げることに各国が合意した。ここで強調されたのが、「無差別」と「互恵」の原則だ。このうち、「無差別」は「相手国によって対応を変えないこと」を意味する。これは政治的関係の経済取り引きの直結を抑えるための原則といえる。一方、「互恵」は「相手がしてくれたことをそのまま返すこと」を意味する。これによって、関税などの条件をお互いに対等にすることが求められるようになった。これらの原則は、1995年にGATTを改組して発足したWTOでも引き継がれている。そのため、相手を「ピンポイントで狙い撃ちにして」「関税を一方的に引き上げる」トランプ政権の方針は、アメリカ自身が主導して生まれた原則やルールに反するものといえる。
トランプ氏は大統領選挙中から「アメリカが不公正な競争を強いられてきた」と強調してきた。この被害者意識が、中国との貿易戦争の勃発を正当化している。トランプ大統領の主張は、全く事実無根とはいえない。アメリカは自由貿易体制を維持するためのコストをどの国より負担してきた。特に、アメリカほど外国企業に市場を開放してきた国は少ない。相手国の市場開放が進んでいなくても、アメリカが市場を率先して開放したことは、世界全体の貿易を活性化させ、他国が対米輸出を通じて経済成長できる土台となった。それは結果的に、日本やヨーロッパ諸国の戦後復興や新興国の成長を可能にした一方、アメリカ企業の輸出競争力を低下させることにもなった。
つまり、これまでアメリカは「互恵」をあえて強調しないことで、世界全体の貿易を活発化させてきたといえる。「相手が不公正なことをしているのだからそれを返す」というトランプ氏の言い分は、その限りにおいて不当でない。ただし、注意すべきは、自由貿易体制からアメリカが小さくない利益をあげてきたことだ。例えば、1940年代後半から日本や西ヨーロッパ諸国に市場を開放することで、アメリカはこれら各国を、東西冷戦の構造のなかで自陣営に引き込むことに成功した。そのうえ、これら各国との貿易が活発化したことで、競争力の高い農業やサービス業の分野で、アメリカ企業は大きな市場を手に入れた。つまり、世界全体の利益を生み出すなかで、アメリカは自国が最も利益をあげられる状況を作り出したといえる。「全体の利益すなわち自国の利益」という秩序を形作れたのは、アメリカが超大国と呼ばれるにふさわしい意志と力を備えていたことの表れだった。(つづく)
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