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2018-07-18 00:00
EUと中国の奇妙な呉越同舟
倉西 雅子
政治学者
アメリカのトランプ政権が保守主義へと大きく舵を切り替えたことを受けて、自由貿易体制の維持を望むEUと中国は対米で結束を強めております。しかしながら、よく考えても見ますと、EUと中国との共闘関係は、奇妙な呉越同舟ではないかと思うのです。特に1980年代以降、EU(当時はEC)が市場統合のプロジェクトに乗り出した理由は、偏に“規模の経済”の追求でした。地図を見れば分かるように、ヨーロッパには中小の諸国が寄せ集まっており、自国の国内市場に閉じこもっていたのでは、各社とも、到底、グローバル市場では闘えない状況にありました。そこで、アメリカをも凌ぐ巨大な単一市場を造ることで、企業規模の拡大をも実現し、グローバルなレベルで激しさを増す競争に生き残ろうとしたのです。言い換えますと、欧州市場誕生の背景には、規模の優位性に対する明確な認識があり、競争力に乏しい自国の中小企業を犠牲にしてでも、米国企業と渡り合える規模を有する‘欧州企業’を育てようとしたのです。
こうした欧州市場誕生の経緯に照らしてみますと、自由貿易推進を絆とした中国との共闘は、自らの首を自らの手で締める結果を招きかねません。何故ならば、規模が勝敗の決定要因であるならば、市場規模、並びに、企業規模において、13億の市場とアリババやテンセント、百度、並びに、独占的政府系企業を擁する中国を前にして、‘欧州企業’には勝ち目がないからです。とりわけ、資金力にものを言わせた中国企業による欧州企業の買収が活発化し、かつ、中国企業の規模が巨大化するにつれ、この勝敗予測は現実のものとなりつつあります。中国との共闘に躍起になっているEUは、敵に塩を送っているかのように見えるのです。
自由貿易、否、市場統合のメカニズムが、比較優位理論かはさて置き、現実には‘規模’に優位性を与えているとしますと、EUと中国との共闘関係の実態とは、関税の壁を高くしたアメリカに対する共同の市場開放要求ということになります。両者ともに、アメリカ市場は有力な輸出先であるからです。また、真に自由貿易の更なる推進を目指すならば、EUと中国こそ、真っ先に例外なき自由貿易協定の締結に動くはずです。しかしながら、今のところ、両者にはこの動きは見えず、沈黙を守ったままなのです。おそらく、双方ともに消極的な理由は、お互いに例外分野なく関税を撤廃し、さらには非関税障壁をも廃止すれば、致命的な影響を受ける産業分野、即ち、保護したい分野があることを自覚しているからなのでしょう。
自由貿易には弱肉強食の論理が強く働くため、必ずや光と影があります。EUも中国も、アメリカの保護主義を闇雲に批判するよりも、影の部分にも配慮した新たな国際貿易体制を考案する方が、余程、人類の発展に資するのではないでしょうか。
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