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2018-07-12 00:00
(連載1)過激派から解放された元・子ども兵を待ちうける拷問
六辻 彰二
横浜市立大学講師
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ソマリアではイスラーム過激派の子ども兵が政府系の勢力に捕まった場合、拷問されたり、弁護士がいないまま軍事法廷に立たされたり、成人なみの刑罰を科されたりしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これが国際人道法に反すると批判する。元子ども兵に対する過酷な取り扱いの主な原因は、汚職や権力の私物化にある。ソマリアでは軍や情報機関による勝手な行動を政府が制御し切れていないのだ。そのうえ、海外からの支援は「国家の再建」より「テロ対策」に向かいやすく、これが元子ども兵の社会復帰があと回しにされる要因になっている。
ソマリアでは1991年以来、内戦が続いてきた。各地に武装勢力が林立した結果、北部のソマリランドは分離独立を主張し、南部をイスラーム過激派アル・シャバーブが実効支配するなど、もはや国家としての体裁さえともなわない「破たん国家」と呼ばれる。難民流出や過激派の活動は周辺国の危機感を強め、その働きかけによって2008年にはソマリアの各勢力を糾合した連邦政府が樹立された。これによってソマリアの和平と復興が期待されたが、連邦政府は首都モガディシュと同国中部しか実質的に支配できていない。そのため、国内が分断された状況に大きな変化はない。そのソマリアでは2015年から、連邦政府が250人以上の子ども兵を解放し、国連児童基金(UNICEF)などに引き渡してきた。これは国際的な要求の高まりを受けてのもので、そのなかには過激派に徴用され、当局に拘束されていた元子ども兵も含まれる。拘束中あるいは解放された元子ども兵にインタビュー調査を行ったヒューマン・ライツ・ウォッチは、ソマリア当局による元子ども兵の過酷な扱いを明らかにしている。インタビュー調査に応じた少年の一人ハムザは、2015年末、15歳のときにイスラーム過激派アル・シャバーブに誘拐され、兵士として戦闘に従事させられた。しかし、2016年3月、プントランドでの戦闘で64人の仲間のほとんどが死に、ハムザは運よく生き延びたものの、プントランド自治政府軍に捕まった。ところが、捕虜になることで過激派から解放されたハムザを待っていたのは、拷問と不公正な裁判だった。ハムザによると、プントランドの刑務所で4人がかりの暴行で自白を強要された後、弁護士がいないまま軍事法廷に立たされ、懲役10年の刑を科されたという。
北東部を実効支配するプントランド自治政府軍は、アル・シャバーブ対策などでソマリア連邦政府に協力している。ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、プントランド自治政府だけでなく、ソマリア連邦政府の機関が元子ども兵を非人道的に扱う様子も浮き彫りにしている。ハムザのように戦闘中に捕まり、拘留された子ども兵の処遇(例えば「子ども」として扱うか、UNICEFに引き渡すか)は、多くの場合ソマリア国家安全保障情報局(NISA)によって決められる。ヒューマン・ライツ・ウォッチのインタビューに応じた16歳の少年の場合、戦闘中に捕まった後、外部との連絡を絶たれたうえ、NISAの監獄で暴行を加えられ、自白を強要されたという。
元子ども兵を「被害者」と捉えるか、「加害者」と捉えるかはデリケートな問題だ。多くの場合、実際には両方の側面があるが、ソマリア当局はアル・シャバーブの元子ども兵を「加害者」として扱いがちといえる。ただし、たとえ「加害者」でも、捕虜の人道的な処遇を定めたジュネーブ条約で、拷問や弁護人なしの裁判は認められていない。一方、ヒューマン・ライツ・ウォッチをはじめとする国際人権団体は、元子ども兵の「被害者」としての側面を強調し、ソマリア当局の対応が国際法に違反していると主張する。1989年の「児童の権利に関する条約(子ども条約)」によると、「子どもの逮捕、拘束、投獄は最後の手段で、できるだけ短期間にすること」と定められており、各国政府には「司法手続き以外の手段」を適用するよう求められる。これに従うと、元子ども兵に対しては刑罰より矯正と社会復帰を優先させるべき、となる。(つづく)
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