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2018-07-03 00:00
(連載2)中途半端なカンボジア選挙支援で中国とのレースに埋没する日本
六辻 彰二
横浜市立大学講師
カンボジアの場合でも、5月に日本政府はカンボジア政府に「公正な選挙の実施」を求めているが、あくまで一般論の域を出ていない。これはいわば「何も言っていないわけではない」というポーズにとどまるといえる。G7などで安倍首相はしきりに「日本が欧米諸国と普遍的価値観を共有している」と強調するが、政治的な立場はともかく、実際の行動の面で欧米諸国とのギャップは大きい。特にカンボジアの場合、日本政府が及び腰になりやすい一因には、中国の存在がある。「一帯一路」構想のもと、中国は東南アジア一帯にも勢力を広げている。このなかでカンボジアは、隣国ヴェトナムの影響力から逃れるため、とりわけ対中シフトが目立つ国の一つ。2018年1月には李克強総理がカンボジアを訪問し、新たに19の経済取引に調印した。カンボジアは2020年までに中国からの観光客を年間200万人に増やし、貿易額を60億ドルにまで増やすことを目指している。
中国が開発途上国で勢力を広げる一因に、相手国の内政に、日本以上に口を出さないことがある。強権的な政府にとって、「やかましい」欧米諸国より、「静かな」中国の方が好ましいと映る。ロヒンギャ問題で国際的に非難されるミャンマー政府を擁護し続けてきたことに象徴されるように、内政不干渉の原則を最大限に強調する中国の方針は、結果的に相手国の強権的な政府との癒着を可能にする。中国の勢力拡大に神経をとがらせる日本政府からみると、中国が7月の選挙に向けて何も発言しない以上、ここで欧米諸国とともに人権侵害や非民主的な対応を理由にカンボジア政府を批判することは得策ではない。言い換えると、カンボジアでの失地回復を目指す日本政府は、同じく内政不干渉を強調する中国の動向をにらみながら、フン・セン政権の「出来レース」ともいえる選挙運営を大目にみているといえる。
繰り返しになるが、何でも口を出せばよいというものではない。しかし、何も口を出さないのもやはり問題である。日本政府はカンボジア政府による不公正な選挙運営を事実上黙認している。情報化が進んだ現代、その動向はカンボジア国内でも知られている。つまり、フン・セン政権に甘い対応をとることは、野党支持者からみれば、日本は自分たちを抑圧する者と結んでいると映る。現実政治的な観点からみて、仮にフン・セン政権が半永久的に続くなら、それでも問題ないかもしれない。しかし、実際にはそんなことはほぼあり得ない。いずれ政権が交代した時になって、「これまで日本はカンボジアの民主化に貢献してきた」と言っても、誰がそれを信用するだろうか。ミャンマーの軍事政権を支援し続けた結果、民主化運動のリーダーだったスー・チー氏が政権を握って以来、日本がミャンマーで微妙な立場に立たされていることは、その象徴である。
日本の政府・自民党は、「日本が長期政権だから外国もそうであるはず、あるいはそれが望ましい」と考えているかもしれない。しかし、日本の特殊事情で海外をみることには弊害も大きい。少なくとも、選挙支援を続けてフン・セン政権を支援したところで、カンボジアにおける中国の優位は簡単には揺るがない。だとすれば、今からでもカンボジア政府に対して、より強いメッセージを送るべきだ。さもなければ、日本政府は「人権や民主主義を重視する西側先進国としての立場」をさらに損なうだけでなく、中国とのレースでも埋没することになるだろう。(おわり)
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