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2018-06-25 00:00
(連載1)欧米諸国と日本の児童虐待に関する刑罰の比較
六辻 彰二
横浜市立大学講師
2018年3月に東京都目黒区で虐待によって死亡した船戸結愛ちゃんの事件で、両親が保護責任者遺棄致死容疑で逮捕されました。こういった痛ましい事件が発生するたび、児童相談所や警察の対応の不備や、自身が虐待された経験などから虐待してしまう親への支援の必要が指摘されますが、増え続ける児童虐待に対応するためには、虐待を行った親への刑罰も再考する必要があります。
現在の日本の法律は、他の先進国と比較して、理不尽な親から子どもを守るうえで十分ではありません。虐待する親に甘い法律は、「親の躾」や「家庭の不可侵」を重視する思考に支えられているといえます。結愛ちゃんの事件のように、日本では虐待死に対する処罰は基本的に保護責任者遺棄致死罪で問われることになります。子どもや介護の必要な高齢者などの保護者が、その責任や義務を放棄し、「結果的に」死に至らしめた場合、「意図的な殺人」とは区別されます。そのため、保護責任者遺棄致死罪による懲役は3年以上20年以下で殺人罪より短い刑期になります。そのうえ、ほとんどの場合、裁判所の判決は20年より短くなりがちです。2012年、1歳の娘を虐待死させた両親に検察が懲役10年の刑を求めたのに対して、大阪地裁は「社会に与えた影響も大きく、今まで以上に厳しい罰を科すことが相当」と強調しましたが、それでも下された判決は懲役15年でした。裁判所が判決を下す際、被告の生い立ちや生活環境などの事情を勘案して、判決内容が検察の求刑や法律の上限より「割り引かれる」のは、他の種類の事件の判決でも同様です。ただし、死亡をともなう児童虐待が大きな関心を集めるなか、「故意によらない死亡」の罪を問う保護責任者遺棄致死罪ではなく、「殺意に基づく」殺人罪が適用されるケースも生まれてきました。やはり2012年に大阪地裁は、二人の子どもを餓死させた母親に「放置すれば死ぬことは分かっていた」と殺意を認定。懲役30年の刑を科しました。
これらの日本の裁判所の量刑が重いか軽いかを考える材料として、他の先進国の法律をみてみます。米国では州ごとにやや異なりますが、例えばネバダ州では14歳以下の子どもを虐待して死に至らしめた場合、2年以上20年以下の懲役刑となります。進歩的で知られるカリフォルニア州ではさらに厳しく、懲役は25年。ヨーロッパに目を転じると、例えばイギリスでは最高14年です。日本の保護責任者遺棄致死罪と比べて、少なくとも法律の内容としては、これらの量刑には大きな差がないといえます。ただし、欧米諸国では虐待を行った親の「殺意」を認定し、殺人罪を適用することも多くあります。例えば、直近では6月8日、カリフォルニア州のロスアンゼルス上級裁判所は、恋人の8歳の息子に暴行を加えたりして死亡させた男に死刑を、男の子の母親に終身刑を言い渡しました。また、死刑が廃止されているイギリスでも2016年、2歳の子どもを虐待死させた夫婦に終身刑が科されました。
先述のように、日本でも殺人罪が適用されることはあります。しかし、児童虐待の容疑者に殺人罪の最高刑が科されてこなかった点で、これらのケースと異なります。つまり、児童虐待を禁じる条文ではほとんど差がなくとも、日本の司法は「殺意」の認定に消極的であるため、虐待死させた親への刑罰が総じて緩くなりがちといえます。これに加えて、日本の場合、深刻な事態に至る前の段階での刑罰が軽い傾向があります。児童虐待防止法では、虐待の恐れがある場合、子どもに親が付きまとうことを都道府県知事が禁止でき、違反者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。しかし、それ以外の罰則は同法では定められておらず、身体的な暴行などは一般の暴行罪などが適用されます。また、育児放棄などの児童虐待そのものへの刑罰もありません。(つづく)
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