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2018-06-12 00:00
(連載2)「歴史のリセット」を夢想するドイツ新右翼
六辻 彰二
横浜市立大学講師
「帝国の市民」以外にも、ドイツでは極右過激派による事件が増加しています。ドイツ内務省の報告によると、極右による暴力行為は2014年に10,541件でしたが、2015年には13,846件に増加。このうち、外国人を標的にしたものは2,207件(2014年)から4,183件(2015年)に急増しています。右翼テロ全体が増えるなか、ドイツ連邦警察は2017年7月に「帝国の市民」も大規模なテロ活動を起こす可能性を示唆。今年4月にはテロ対策などを専門にする連邦警察の特殊部隊(GSG-9)が、ベルリンなどで大規模な家宅捜索を実施しました。冒頭で紹介した、当局による「帝国の市民」メンバーからの武器没収は、このような背景のもとで行われたのです。この他、「帝国の市民」は組織犯罪にも加担しているとみられています。2018年5月の家宅捜索でドイツ警察はドイツ人2人、ロシア人1人を、モルドバ人を偽のルーマニアのパスポートで入国させた人身取引の容疑で逮捕。当局は同様の事件が他にもあるとみています。
現在の国家を否定し、自分をその一員とみなさないタイプの右翼は、ドイツ以外にもみられます。アメリカの「独立市民(Sovereign citizens)」と呼ばれる緩やかなネットワークは、銃携帯の自由や(差別的な言動を含む)表現の自由を強調する点で、他のアメリカ白人右翼と同じです。しかし、現実にある政府の正当性を認めない点でドイツの「帝国の市民」と共通します。そのメンバーは(オバマ氏が大統領選挙で勝利した)2008年以降、急速に増えているとみられ、全米で約1,000人にのぼるとみられます。「帝国の市民」と同じく、彼らも運転免許証など公的な身分証明を破棄し、独自のIDカードをもち、税金の支払いを拒絶しています。現実の法律や公的機関を否定する「独立市民」は、しばしば暴力事件を引き起こしてきました。2016年1月にはオレゴン州のマルー国立野生動物保護区を「独立市民」の一団が占拠。この地区に関する連邦政府の管轄権を引き渡すよう求め、最終的に警察との銃撃で一人が死亡しました。また、ニュージャージー州では2017年にイデオロギーに基づく暴力事件が11件ありましたが、このうち5件は「独立市民」によるものでした。
ドイツの「帝国の市民」に代表されるタイプのグループには、大きく二つの特徴を見出せます。第一に、基本的に伝統的な価値観や歴史を重視し、一方で現実の社会に不満や幻滅を蓄積させていることは他の極右勢力と同じでも、歴史のある時点に立ち返るという不可能なことを夢想している点です。第二に、その不可能な夢想のために、現実を全く否定するという倒錯がある点です。現実社会を否定し、仮想の結びつきを「現実以上の現実」と捉えることは、ネット空間の発達により後押しされているとみられます。
いずれにせよ、「帝国の市民」のようなグループの台頭は、各国にとって新たな脅威となります。歴史や伝統を重視することは「保守」の必須要件でしょうが、それと歴史のリセットを目指すことは話が別です。実際にある国家や社会が「誤り」であり、理想化された過去を現実にしようとする思考パターンは、その実現が不可能であるだけに、力に頼りやすくなります。それは「イスラーム共同体の復活」を目指したイスラーム国(IS)にも通じるものです。現実を否定する夢想が拡散し、現実に疲れた人々を引き寄せる現状からは、右翼テロの脅威がまた一段上がる懸念が大きいといえるでしょう。(おわり)
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