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2018-05-25 00:00
(連載2)米国によるイラン制裁の限界と危険性
六辻 彰二
横浜市立大学講師
これと並行して、UAEは徐々にイエメンの南部諸部族への支援を強化するようになりました。もともとイエメンは、北部をオスマン帝国に、南部を大英帝国に、それぞれ支配されていましたが、双方が1962年に別々の国として独立。冷戦時代は西側に近い北イエメンと、東側に近い南イエメンはしばしば衝突を繰り返し、1990年にようやく統合されました。このような経緯もあり、イエメンは一つの国としての一体性が乏しく、南部諸部族の間には分離独立を求める動きもあります。その南部では、UAEがイエメン内戦のなかでアル・イスラーハ系組織を攻撃し、アデンの空港などを実質的に掌握。ハーディ政権と距離を置く周辺の諸部族への支援を強化することで、イエメン政府の頭ごしに同国南部での影響力を強めていったのです。これはイエメン政府に「UAEが混乱に乗じて南部を独立させ、傀儡政権を打ち立てようとしている」という警戒を抱かせるには十分でした。2017年3月にハーディ大統領は「UAE軍がイエメン解放のための軍隊というより、占領軍のように振る舞っている」と批判しています。UAEにとってイエメン南部を切りとることは、フーシ派やアル・イスラーハを追い詰めるという戦略的な利益だけでなく、経済的な利益にも結びつきます。
今回、UAEが部隊を展開させたソコトラ島は、各国の商船を狙う海賊が頻繁に出没するソマリア沖に浮かんでいます。近年UAEはソマリアの港湾整備などを手掛けています。つまり、イエメン南部だけでなくソコトラ島を支配下に置くことで、UAEはアラビア半島とソマリアを結ぶ海上ルートを確保できるのです。この背景のもと、UAE政府はハーディ大統領がフーシ派の攻撃に直面し、首都から落ちる前に、ソコトラ島を99年間リースする契約を結んでいたと報じられています。最近ではUAEが軍事施設、港、通信施設などの整備を行い、住民登録なども進めていました。さらにアル・ジャズィーラによると、UAE軍が展開するや、官公庁にはUAEの国旗が翻り、同国のナヒヤーン皇太子の肖像画が掲げられ、数百人の住民が部隊の歓迎のために集まってきたといいます。ただし、ソコトラ島での軍事展開がUAEの国益を反映したものであることは確かですが、これがイエメン政府のいう「侵略」に当たるかは疑問です。少なくとも公式に確認される限り、UAE、イエメンの両政府は、ソコトラ島のリース契約を明確に肯定も否定もしていません。
合法的な契約でも、領土の長期リースや売却は、売却国で国内の反発を招きがちですが、買収国にとっても外聞が悪いものです。例えば、スリランカやモルディブの港湾部を長期リースする中国は、反対派から「土地収奪」と批判されます。そのため、当事者がリース契約をグレーにしていることは、逆にリース契約の存在を示唆します。仮にリース契約があるにもかかわらずイエメン政府がUAEの行動を「侵略」と批判するなら、国内向けの煙幕に過ぎないといえます。むしろ、ここで重要なことは、これまでの関係からソコトラ島に部隊を進めればイエメン政府から不満が噴出することは目に見えていたはずなのに、あえてUAEがそれを行なったことです。そこには、トランプ政権によるイラン核合意の破棄が目前に迫るなか、スンニ派の結束を強めたいサウジアラビアが自国に譲歩するはずというUAEの目算をうかがえます。言い換えると、UAEはイラン核合意の破棄という外の大きなショックを利用してビッグブラザーに揺さぶりをかけているといえます。それはスンニ派諸国の間でのサウジアラビアのリーダーシップが限定的であることをも示します。サウジの限界は、スンニ派諸国との関係をテコにイラン包囲網を強化したい米国にとってもアキレス腱になるでしょう。
ただし、スンニ派諸国の結束が形骸化することは、米国によるイラン核合意破棄の後の中東が平穏であることを意味しません。むしろ、スンニ派諸国の協力が限定的になれば、米国はこれをあてにせず、イランへの敵対心が強いサウジやイスラエルとだけでも、より直接的な軍事活動に向かいかねません。これらに鑑みれば、米朝首脳会談に先立って米国がイランで、直接的な攻撃でないとしても、何らかのアクションを起こす可能性は大きいといえるでしょう。(おわり)
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