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2018-05-23 00:00
日中経済関係改善への疑問
倉西 雅子
政治学者
8年ぶりの李克強首相の公式訪日で実現した日中韓サミットでは、経済分野における日中関係の改善が特に進展した分野として報じられています。マスメディア等では、米中関係の悪化を背景とした中国による対日譲歩として説明していますが、その内容からしますと、逆なのではないかと思うのです。
第1に挙げられる点は、“再開”と表現されているスワップ協定における非対等性と元の国際化への協力です。今般、合意されたとする日中通貨交換協定の仕組みとは、邦銀が金融危機などの影響により人民元を調達できない事態に陥った場合、日銀が中国人民銀行から円と引き換えに元を調達して邦銀に提供するというものです。この仕組みで想定されているのは、元の調達危機であり、その逆はありません(それとも、逆パターンについてはマスメディアが報じていない?)。即ち、円調達に支障を来す事態は想定外であり、このことは、人民元を日中貿易での決済通貨や投資通貨と見なしていることを意味します。つまり、米ドルが国際基軸通貨である故に、他の諸国にとってその発行国であるアメリカとのスワップ協定が極めて重要となるように、中国は、日本国に対して人民元に‘国際基軸通貨’の地位を認めさせようとしているように見えるのです。これまで、日本国政府もまた、円の国際化政策を推進してきましたが、この方針は、中国に対する譲歩によって、事実上、放棄したこととなります。否、日本国政府は、一時頓挫していた人民元の国際化戦略に再度挑み始めた中国に協力していると言っても過言ではないのです。
第2の懸念される点は、「日中サービス産業協力メカニズム」なる仕組みの構築です。サービス分野とは人の移動を伴いますので、仮に、相互にサービス市場を開放するためのメカニズムであるとすれば、移民問題と直結します。国民監視が徹底した独裁国家である中国の現状を考慮しますと、中国人による日本国での起業や就業が圧倒的に多くなるものと推測されます。言い換えますと、サービス分野での日中協力とは、日本国政府による隠れた移民政策、否、中国人移民受け入れ政策になりかねないのです。
第3の疑問点は、日中映画協定の締結です。この協定により、日本映画が中国市場に参入しやすくなると説明されていますが、中国では、映画の内容は当局によって厳しくチェックされており、中国の体制を批判したり、共産主義やそれに基づく歴史認識を否定するような映画は上演することはできません。実際に、チャイナ・マネーを呼び込んだハリウッドでは、中国政府に媚びる作品が製作されるなど、その弊害が問題視されるに至っています。こうした現実を直視すれば、日中映画協定とは、日本国の製作者に対する‘自己規制’の要求となり得るリスクがあります。
加えて第4点として指摘し得るのは、中国が提唱する「一帯一路構想」を想定した日中間の第三国に対するインフラ分野での協力です。「一帯一路構想」に潜む中国の覇権主義は既に各方面から指摘されておりますが、今般の合意では、委員会を設置するという踏み込んだ内容となっています。たとえ日本国が僅かなりともビジネスチャンスを得たとしても、他国を中国支配のリスクに晒すような協力は、植民地主義を否定してきた国際社会の倫理に反します。無法国家の利己的な野望に手を貸すことにでもなれば、日本国は、後世に汚名を残すこととなりましょう。
以上に主要な疑問点を挙げてきましたが、今般の日中協力において特筆すべきは、その手法が制度化を伴っている点です。同合意にはしばしば“メカニズム”や“委員会”という名が登場しており、いわば、中国の統治機構が日本国を絡め取るかのような様相を呈しているのです。一旦、こうした仕組みが設立されますと、行政組織の常として廃絶は困難となりますし、おそらく、これらの制度を介して、中国は、様々な要求を日本国政府に押し付けてくることでしょう。日中関係の改善が日本国に対する中国の介入強化を意味するならば、日本国民の多くは、警戒を強めこそすれ、決して歓迎しないのではないでしょうか。
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