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2018-05-15 00:00
(連載2)内部告発者に冷酷な日本
六辻 彰二
横浜市立大学講師
もちろん、これらの国でも内部告発者が常に安全というわけでなく、告発された企業や役所での「犯人捜し」や嫌がらせはあります。だからこそ、内部告発者が不当な扱いを受けた場合に頼るべき窓口を設置したり、その場合の手順を簡便化したりすることは、法律を文面だけに終わらせない意思を感じさせるものといえます。欧米諸国だけでなく、韓国や中国でも内部告発の制度は急速に発展しつつあります。このうち韓国では、2011年に公益通報者保護法が成立。同法は解雇など内部告発者に不利な扱いを行った企業、官庁に対して、罰金や懲役を含む刑罰を定めています。そのうえ、不利な扱いによって発生した経済的損失(裁判費用などを含む)の補てんも含まれます。一方、中国では2016年に内部告発に関する新たな制度が導入されました。そこには米国と同じく内部告発に報奨金(20~50万元)を出すこととともに、内部告発者の保護の強化も含まれます。共産党の中央規律検査委員会が内部告発の窓口となっており、同委員会はスマートフォン向けアプリも導入して内部告発を受け付けています。また、内部告発者への不利な扱いには、行政処分だけでなく、場合によっては刑事罰も適用されることになっています。
欧米諸国と比べて、日本を含むアジア諸国には全体的に汚職や不透明な行政が目立ちます。とりわけ中国の場合、汚職がひどいことは広く知られています。また、その汚職対策そのものに権力闘争の色彩があることも確かです。しかし、世界全体で透明性が求められるなか、不正がはびこっているからこそ、これら両国は内部告発の制度化に熱心といえます。内部告発が実効性のある制度として確立されることは、「透明性を確保しようとしている」という、一種の品質証明になります。逆に、これを形式的な法令で済ませていることは、「透明性や説明責任に熱心でない」というラベルを貼られることになりかねません。また、海外から企業が進出してくることも当たり前の現代、内部告発の制度化が立ち遅れた国は、不透明なビジネスを行う企業の吹き溜まりにもなりかねません。それはやはり国家の評判を引き落とすものといえます。その意味で、たとえ現状において不正が目立つとしても、内部告発者の保護には、中韓両国の国家的な意思を見出せます。
ひるがえって日本では、公益通報者保護法が導入された際、イエ観念や忠孝の美徳を強調する人々の間で、「自分の所属する組織の不都合なことを公にすることは日本に合わない」といった議論がありました。その当時の2003年段階の調査では、年長になるほど、職位があがるほど、「内部告発をする者と一緒に働きたくない」と答える傾向が強いと報告されています。この状況は、あまり大きく変わってないかもしれません。とはいえ、ムラ的な規範を重視するあまり、不正の隠蔽がまかり通ることは、日本社会の劣化を促すだけでなく、日本の対外的イメージを損なうことになります。
2014年に米国で発覚した日系企業へのリコール問題で、日本国内では海外での内部告発を警戒する声があがりました。2018年3月27日付の日経新聞では、米国における内部告発を日本企業にとっての「新たな脅威」と位置づけています。しかし、「脅威」と呼ぶことは「内部告発イコール悪」というイメージを強めるだけです。内部告発をただ警戒するより、告発されて裁判になっても勝てる、という状態を作ることの方が生産的ではないでしょうか。言い換えれば、「何かあれば内部告発があり得る」という想定のもとに、法に照らして身を律するという当たり前の対応が先決で、それがひいては海外における日本企業や製品に対する信頼回復の早道のはずです。むしろ、内部告発を警戒しながら、法令に従わない慣習を続け、それが内部で声があがった時点で処理できずにスキャンダル化するというサイクルがこのまま続けば、日本という国全体が被る損失は、大企業の社長や官庁の責任者たちが(道義的)責任をとって辞職したくらいで購えるものではありません。だとすれば、内部告発者をむしろ優遇するくらいの制度改革がなければ、不祥事と隠蔽が横行する日本の再生は難しいといえるでしょう。(おわり)
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