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2018-05-14 00:00
(連載1)内部告発者に冷酷な日本
六辻 彰二
横浜市立大学講師
フェイスブックから個人情報が流出し、2016年米国大統領選挙だけでなく、同年の英国のEU離脱を問う国民投票にも影響を及ぼしたとみられる問題は、一人の内部告発者によって明るみになりました。内部告発は企業や組織が不当に「私益」を求めることで「公益」が損なわれる状態を改善するための重要な手段であり、そこに関する関心はこれまでになく高まっています。日本でもこの数年、検査データの改ざん、虚偽報告といった不正や、自衛隊の南スーダン日報の隠蔽、加計学園をめぐる内閣府から文科省への働きかけといった事案は、内部告発によって大きく動きました。筆者が片足を突っ込む大学業界でも、研究資金の不正利用などの内部告発は、珍しくなくなっています。ところが、日本は内部告発をした者が解雇や左遷を余儀なくされ、泣き寝入りを強いられやすい国です。内部告発者を守る制度で日本は、欧米諸国はもちろん近隣の中国や韓国と比べても立ち遅れていると言わざるを得ません。内部告発者を出しにくい制度は、問題を隠蔽したい責任者らには好都合でしょうが、より腐敗しやすい環境を生み、ひいては社会全体を劣化させるものといえます。
日本では2000年代初頭、大手食品メーカーで補助金詐欺などの問題が相次いで発覚。これらを受けて2004年には公益通報者保護法が成立。これにより企業や役所による不正を、内部で声をあげても改善されない場合、それらの組織の内部の者が上位機関やマスメディアに告発することが法的に認められています。同法は多くの企業が「コンプライアンス(法令順守)」を強調するきっかけとなりました。ところが、同法は形式的には内部告発を認めているものの、実際にはそれを困難なものにし続けています。最大の問題は、内部告発をした労働者を保護する仕組みがないことです。同法第3条、第4条、第5条では、内部告発を理由とした解雇、派遣労働者契約の解除、その他の減給、降格といった不利な扱いを無効と定めています。しかし、内部告発された企業などが「犯人捜し」を行い、報復的な人事を行ったとしても、そこに罰則規定はありません。
その結果、不正を告発した者が閑職に追いやられたり、離職を迫られたりすることは珍しくありません。ところが、これらに対する異議申し立ての専門窓口もありません。さらに、公益通報者保護法はあくまで現役の労働者を想定したもので、退職後の者は保護の対象にさえなりません。そのため、内部告発によって解雇など不当な扱いを受けた人には、裁判に訴えたり、労働組合を通じて抗議したりするなど、手間、時間、資金といったコストの高い道しか残されていません。勇気を奮って内部告発した者に冷たい法律は、「内部告発をしても割に合わない」と思わせるものです。それは結果的に、不正の隠蔽を促す土壌になってきたといえるでしょう。
一方、海外に目を向けると、世界で最も内部告発の制度が整った国の一つとして米国があげられます。米国では内部告発に報奨金が出されています。ただし、虚偽の内部告発を行った場合には法的に処罰されます。これは賛否の分かれるところで、米国ではそのインセンティブ効果が強調されますが、ヨーロッパ各国では議論にとどまっています。しかし、報奨金はさて置いたとしても、欧米諸国にほぼ共通するのは、内部告発者の保護を実質的なものにする制度があることです。例えば、1989年に内部通報者保護法が成立した米国では、内部告発者が法的に保護されているだけでなく、官庁、軍、民間企業などに、分野ごとにいくつもの専門窓口があり、例えば労働省のもとには環境破壊、労働者の安全、食品の安全などに関する窓口(Whistleblower protection program)があります。ここでは告発だけでなく内部告発による報復人事に関する報告や異議申し立てもできます。また、英国では1998年に公益開示法が成立。やはり、内部告発をきっかけに不利な扱いを受けた労働者が異議申し立てを行う機関として、雇用裁判所(Employment Tribunal)があります。さらに、ヨーロッパ委員会は4月23日、内部告発者の保護に関する、EU全体での新たな法律を提案。ここでは解雇などの不当な扱いを受けた内部告発者が異議申し立てをできる窓口を設置すること、ここでは内部告発者に不当解雇を証明する責任が求められるのではなく、雇用主側に「不当解雇でないこと」を証明する責任があることなどが定められました。(つづく)
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