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2018-05-13 00:00
モリカケより深刻な日銀の巨大リスク
中村 仁
元全国紙記者
国会は森友、加計学園を巡る攻防で明け暮れ、新聞、テレビは反安倍も親安倍も連日、政権の動揺ぶりを報道するのに熱心です。内閣支持率は急落していますから政権は死に物狂いです。責任をもっぱら官僚に押し付け、首相が「膿を出す」といっていれば、逃げ切れるのか、闇が深くなってきました。そんな最中、黒田日銀総裁が再任されました。経済的視点からみれば、森友や加計問題より、はるかに巨大な難題を日銀は背負っております。安倍政権が退場することになれば、モリカケは終息に向かいます。それに対し、異次元緩和の後始末は何十年かかるか分かりません。つまづけば、日本の経済社会に将来にわたり、巨額の負担を押し付けることになります。
安倍政権の体質、政と官の関係にメスを入れることは、日本の民主政治にとって重要です。一方、経済問題としてみれば、開校した加計学園は総工費200億円、地元自治体の負担100億円ですし、森友学園は開校不能で倒産状態ですから、金額としてみると、極めて小さな規模の問題です。黒田総裁が再任された際の記者会見(日本経済新聞、4月10日)を読み返してみました。大きな発見がありました。「出口(異次元緩和からの転換)は検討する段階でない」といいながらも、「出口」という言葉を5回も使っているのです。これまでは、素気なく「検討していない」という応答でした。さらに政府と日銀との「共同声明」(2013年1月)に3回も言及しています。「共同声明」の骨格は、「デフレからの早期脱却の実現、消費者物価の上昇率の2%目標、その早期実現」です。黒田氏が就任(同年3月)直後、「2年で2%を達成する」と言い切ったのは、この「共同声明」を受けてのことです。「出口」や「共同声明」に何度も言及したのは、総裁は本心では「許されるなら出口の準備に取り掛かりたい」、「2%の実現は難しく、達成時期を6回も先送りしている。そろそろその旗を降ろしたい」と思っているからだと、私は推測します。それを黒田氏の一存ではできない構図になっているのに違いありません。安倍首相が「分かった」といわない、いえないからです。
軽部謙介氏の近著『官僚たちのアベノミクス』によると、安倍氏が首相に復帰することになる2012年暮れの総選挙で、安倍氏は日銀批判を連呼し、「デフレ脱却の目標達成のために、金融を無制限に緩和していく。日銀による国債買い入れを無制限に行う」ことを公約に掲げました。当選後、首相は「2%を早期に実現する。全面的に日銀が責任を負う。政府が変な責任を負わないように工夫してほしい。日銀に達成時期を明示させて、逃げられないようにしてくれ」との指示を官邸の側近に出したとのことです。こうした基本路線が敷かれたところに、黒田氏が総裁を要請され、黒田氏も当初は実現できると思っていたのでしょう。次第にその困難さに気づいていったはずです。問題は、持論にしがみつく安倍首相が在任している限り、「異次元緩和からの出口を考える。2%目標は無理だから、その旗を降ろす」ことは、受け入れられないです。2%目標をいつまでも看板に掲げ、副作用の大きな異次元緩和を続けていけば、取り返しのつかない状況が一段と深刻化していくのです。
政府税制調査会会長を務めたことのある石弘光・元一橋大学長は黒田氏と親交がありました。ガン闘病中の身で、月刊文芸春秋に「アベノミクスは早く店じまいせよ」という手記を書きました。「黒田氏は外堀を埋められ、身を引くに引けなくなっているのではないか」と、黒田氏に同情しています。「過去の首相は政治生命と引き換えに、消費税の導入や税率アップをしてきたものだ」とも指摘します。モリカケ問題も、日本の将来に禍根を残す異次元緩和も、その発端は安倍政権、その官邸主導にあると思います。長期間、大規模な金融財政支援を受けている限り、既存の産業は現状に満足し、次代を作る新しい産業、企業が生まれてきません。その一方で、日銀が購入した国債や株が巨額になり、市場機能はマヒし、財政運営は緊張感をなくし、財政赤字が積みあがる。ここからの大転換は政権交代がない限り難しいでしょう。
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