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2018-05-10 00:00
(連載4)尖閣諸島を守るための基本方策
佐藤 有一
軍事評論家
(6)世論啓発::2017年の内閣府による世論調査によれば、「尖閣諸島に関心がある」とする人の割合は62.2%でした、2014年に実施された同じ世論調査では74.5%でしたので、3年間で12.3%減少したことになります。この間に尖閣諸島をめぐる争いが緩和した訳ではないので、この「尖閣諸島に関心がある」とする人が減少したことは、理解できないことです。同じ領土の争いである「北方領土」に関する、2013年の内閣府の世論調査では、「北方領土問題の内容を知っている」とする人の割合は81.5%でした。これと比較して「尖閣諸島に関心がある」とする人が少ない原因は、次のように分析することができます。「北方領土」は、もともと日本人が住んでいた土地を取り返すという攻めの行動であり、主体となる政治団体も多く、広報される機会も多いのに対して、「尖閣諸島」は日本の領土を奪おうとする中国に対する守りの行動であり、支援する政治団体も少なく、広報されることも少ないということです。
尖閣諸島に関する国民の理解と支持は、世論調査の結果に現れているように、必ずしも高いものではありません。従って、さらなる世論啓発が必要であり、その内容を工夫すべきです。尖閣諸島に接近した中国公船のニュースを映像を含めて広報することが、国民が尖閣諸島を知る基本です。インターネットで、このニュースを時系列で漏れなく見ることができるサイトを構築すべきです。海上保安庁の巡視船の活躍を連続ドラマ仕立てで制作して、テレビ放映するのも面白いかもしれません。教育分野での啓発も望まれます。特に中学校の社会科で、領土と国の問題、国の安全保障についての教育を充実すべきです。2017年に行われた日本と中国における同時世論調査で、「中国に対して良くない印象を持っている」とする人の割合は88.3%でした。これは私達の日常意識からすると、意外に高いと感じる人が多いと思います。ところが、2006年の同じ世論調査では、この割合は36.4%でした。この年以降、その比率がほぼ連続して上昇し、現在に至っているのです。2017年の世論調査での理由の内訳は、56.7%が「尖閣諸島周辺の侵犯」で、39.8%が「共産党の一党支配という政治体制」でした。この両者とも変化させることは簡単ではありません。それでも、少しでも前に進めることができないでしょうか。日本国内に「中国に対して良くない印象を持つ」ように仕向ける作意が存在していなければよいのですが。というのも「中国に対して良くない印象を持つ」ことが、尖閣諸島をめぐる争いを解決するためには、何の役にも立たないと思うからです。これは中国側においても言えることです。互いの国民が良くない印象を抱いていては、尖閣諸島をめぐる争いを解決するための交渉は進展するはずがありません。
(7)政治主導::「戦争は政治の延長である」とする考え方は、よく知られた戦略思想です。尖閣諸島をめぐる争いにも、この命題は当てはまると思います。従って、尖閣諸島を守るための行動は、政治が主導しなければならないのです。政治が主導することによって、日本の安全保障に必要な防衛予算を重視した政策が可能になります。わが国の国家予算の総額は約100兆円です。この内の約5兆円が防衛予算で、ここ数年間は増加傾向にありますが、まだまだ充分とは言えません。日本の安全保障のための防衛予算は、他の予算とは別枠で考えるべきです。防衛予算が不足した状態が継続して日本の安全保障が損なわれると、国の存亡にかかわる事態になりかねません。それに対処するためには、その何倍もの莫大な費用が必要になるでしょう。また、政治主導で必要な防衛予算を確保することが、日本政府による「尖閣諸島を守る」という意思を、中国さらには国際社会に示すことにもなるのです。
尖閣諸島をめぐる争いでは、日本と中国が政治主導で動かないと、意に反した衝突が起こる恐れがあります。それぞれの国内には利害が相反する組織・団体が存在し、政治交渉を進める障害になるのが普通です。その国内の障害を突き破って政治交渉を進めることができるのが、政治主導です。また、政治交渉で双方の軍事行動を規制することを決めても、どちらかの軍隊が政治主導で動かず、軍部の事情だけで行動すれば、その政治交渉の結果は簡単に覆されてしまいます。日本と中国の外交関係が悪化した状況にあっても、尖閣諸島をめぐる意図せざる戦争を防止するための方法について考えてみました。これらは政治主導によって実現できる筈です。最初は「軍事ホットラインの構築」です。偶発的な事故や判断ミスが軍事衝突に至らないように回避するための連絡メカニズムです。次が「戦力の引き離し」です。尖閣諸島の周囲に、互いに軍事力を配置しない領域を設け、日本と中国の軍隊はその外側でのみ行動するように協定するものです。戦力が引き離された海域では、警察力のみで対処することになります。最後が「自衛隊と中国軍の共同訓練」です。防災訓練・テロ対策訓練などの実現しやすい共同訓練を実施して、互いの理解を深めます。尖閣諸島をめぐって、日本と中国の相互不信が原因で戦争になることは避けていかなければなりません。(おわり)
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