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2018-05-07 00:00
朝鮮戦争・核ミサイル問題分離論のメリット
倉西 雅子
政治学者
米朝首脳会談については、南北首脳会談の勢いから、今月中の開催もあり得る様相を呈してきました。トランプ大統領も積極的な姿勢を示しており、開催地の候補に板門店の名も挙げています。こうした中、先の南北首脳会談における両国間の主要議題が、朝鮮戦争の終結と朝鮮半島の平和体制の構築に置かれていたことから、国際社会における最大の関心事である核・ミサイル問題の解決は、米朝首脳会談に委ねられているとする見解も見受けられるようになりました。いわば、朝鮮戦争問題と核・ミサイル問題の分離論であり、両者を別々の問題として解決しようとする立場です。
南北首脳会談が実現した背景には、中国を後ろ盾とした南北両国が、敢えてこの時期に平和を演出することで米軍による軍事制裁を回避する意図があったとも指摘されております。中国並びに南北両国としては、恰も一次方程式を二次方程式にアップするかの如く、朝鮮戦争の終結問題と核・ミサイル問題を混合して事態を複雑化することで、後者の問題に対する一種の目くらましを意図したものとも推測されるのです。乃ち、朝鮮戦争の終結を前面に打ち出し、“平和”を強調すれば、アメリカも、核・ミサイル問題において妥協をせざるを得ず、軍事制裁には踏み切りづらくなると読んだのでしょう。イランの核問題とは、この点、決定的な違いがあります。8世紀、唐の時代、玄宗皇帝が囲碁で負けそうになった際に、傍に控えて勝負の行方を見ていた楊貴妃が、機転を利かせて抱いていた子犬を碁盤の上に放って碁盤の石をめちゃくちゃにし、勝敗を分からなくしてしまったとする故事があります。中国大陸や朝鮮半島では、古来、窮地に陥った際に意図的に混乱を起こすという攪乱戦法があるのです。
となりますと、このままでは南北両国、並びに、マスメディアの共同演出に乗せられ、アメリカが妥協の余地を見せるや北朝鮮側は要求条件を高くし、リビア式の“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”から遠のくシナリオも予測されます。そこで、こうした展開を避けるためには、むしろ、南北両国が、米軍の軍事制裁を怖れるばかりに核・ミサイル問題を“付けたし”程度に扱った点を逆手にとり、米朝首脳会談の席では、朝鮮戦争の終結問題を抜きにした核・ミサイル問題の解決に特化する方法も考えられます。
核・ミサイル問題のみを取り出せば、そこには、北朝鮮による違法な核開発という現実が浮かび上がります。両問題を切り離せば、アメリカは、朝鮮戦争終結問題を考慮することなく、国連憲章、核兵器不拡散条約(NPT)、並びに、安保理制裁決議に対する違反を理由とした軍事制裁を北朝鮮に科すことができるのです。北朝鮮の金正恩委員長については、マキャベリズムの申し子として国際規範からの逸脱を容認し、むしろ、交渉術の成熟さとして評価する見解も聞かれますが、マキャベリが生きたのは今から凡そ500年も前の時代です。無法国家と化した北朝鮮を国際法秩序に従わせることこそ、現代を生きる人類の課題なのではないでしょうか。
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