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2018-04-23 00:00
(連載1)シリア攻撃で米国が得たもの
六辻 彰二
横浜市立大学講師
現地時間の4月13日、トランプ大統領はシリアへのミサイル攻撃を命令。東グータで化学兵器が使用された疑惑に関して、米国政府はこれがシリア軍によるものである証拠をもっていると強調し、英仏もこれに呼応するなかでの攻撃でした。米国は約1年前の2017年4月7日にもシリアを59発の巡航ミサイルトマホークで攻撃していますが、その時と同様、今回も「アサド政権による化学兵器の使用を止めさせること」を大義とします。ただし、それだけでなく、トランプ政権には今回の攻撃に、内政、外交ともにいくつかの目的があったとみられます。東グータで化学兵器が使用された疑惑が浮上して以来、トランプ大統領はシリアのアサド政権やその支持者であるロシアを強く非難し、ミサイル攻撃を示唆。しかし、実際に行われるかには疑念も広がっていました。その最大の理由は、ロシアとの対立がエスカレートする危険性でした。
シリア内戦において、ロシアは一貫してアサド政権を支持し、米国主導の有志連合とも対立してきました。昨年の米軍によるミサイル攻撃の場合、まさにいきなりの攻撃だったため、シリア軍だけでなくロシアもほぼ全く反応できませんでした。しかし、その後ロシアはシリアでのミサイル防衛を強化してきました。もともと2016年末の段階でシリアにはロシア製ミサイル迎撃システムS-400が配備されていましたが、2017年5月にロシアは、これに加えて早期警戒管制機A-50Uを配備。さらに今年1月にはS-400が増派。飛来するミサイルを迎撃する能力は向上しています。つまり、米国がトマホークを放てば、そのいくつかはS-400に撃墜されるのであり、それは米ロの対立が今までなかった段階に足を踏み入れることを意味します。
女性や子どもを含む非戦闘員に犠牲を出す化学兵器の使用が、とりわけ欧米諸国で強く批判されていたことは確かです。とはいえ、「非人道的な状況」があれば欧米諸国が常に軍事行動を起こすわけでもありません。今回の場合、シリアの化学兵器は(北朝鮮の核兵器と異なり)米国を標的としていません。そのうえ、ロシアとの対立が抜き差しならないレベルに達する恐れがあることは、米国による攻撃が実際にあるかを疑問視させる大きな要因だったといえます。「狂犬」と呼ばれ、強硬派で知られるマティス国防長官が再三、ミサイル攻撃に反対していたことは、この見方を後押しするものでした。そのなかで行われたミサイル攻撃には、公式に強調される「化学兵器の使用に対する制裁」以外に、トランプ大統領にとっていくつかの意味を見出すことができます。
第一に、北朝鮮との関係です。昨年4月のシリア攻撃の直後、ティラーソン国務長官(当時)はこれが核・ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭においたものだったと示唆。つまり、「米国は大量破壊兵器の使用を認めない」というメッセージを伝えることが、昨年のシリア攻撃の別の側面としてありました。今回の場合も、基本的には同じことがいえます。韓国の働きかけを通じて、5月には米朝首脳協議が開催される予定です。米国はあくまで朝鮮半島から核兵器を一掃することを求めており、「核実験の停止」や「ミサイル発射の中止」などでは済まさないという立場を維持しています。強硬派として知られ、次期国務長官に指名されているポンぺオCIA長官が、4月12日に「北朝鮮の体制の維持」を公言したことは、「大量破壊兵器をめぐる問題では譲歩しない」という姿勢の裏返しといえます。つまり、シリアでの化学兵器の使用を認めないことは、北朝鮮への威圧につながるのです。ただし、その強気のメッセージが北朝鮮情勢で奏功するかは、現段階で不透明です。昨年のシリア攻撃は、その後の米朝間の緊張を高めるきっかけとなりました。(つづく)
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