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2018-04-18 00:00
(連載1)世界秩序の枢軸のユーラシア回帰は何をもたらすか
宇山 智彦
北海道大学教授
歴史的に見て、広い地域に影響力を持った国のほとんどは、アジアかヨーロッパの中に存在していました。古代から第二次世界大戦まで、世界秩序の中心は常にユーラシアにあったと言ってよいでしょう。冷戦期は世界史の中でも例外的な時代で、ユーラシアから遠く離れたアメリカが最も強力な国となり、世界のほぼすべての地域に対する影響力をめぐって、ユーラシア国家ソ連と競争をしていました。この状況は、輸送手段や通信手段の発展、また長距離ミサイルの開発と相まって、時に一つの幻想をもたらしました。超大国は地理的な制約や歴史的な条件を超えて影響をふるうことができるという幻想です。この幻想は冷戦の終結後さらに強まり、唯一の超大国であるアメリカが、一方的かつ無謀な行動をとりがちになりました。現在進みつつある、アメリカを中心とした世界秩序の浸食は、世界秩序の枢軸が徐々にユーラシアに戻ることを意味します。これはさまざまなことをもたらしていますが、ここでは3つ指摘したいと思います。
まず、地理的・歴史的条件の重要性が、再び明白になってきているということです。ユーラシアは、多様な文化と複雑な歴史的相互関係を持つ地域が接し合う場所だからです。最も大きな非西洋の2カ国である中国とロシアは、かつては大帝国であり、周辺地域に大きな影響を及ぼしていました。しかし、中国の覇権的な地位は19世紀後半に西欧諸国と日本によって転覆されました。またロシアの超大国としての地位は、ソ連が冷戦に実質的に敗北し、1991年に最終的に崩壊した結果、失われました。現在は両国とも、歴史的な屈辱を晴らそうとして、地理的な近接性・接続性や歴史的なつながりを使いながら、勢力圏を回復し、グローバルなプレゼンスを高めようとしています。アメリカとその同盟国は、中ロが地理的な接続性や歴史的な関係を巧みに利用できるような地域で両国と競争する際に、困難に直面しています。これは特に中央アジアの場合で顕著です。
他方、歴史は国際関係に悪影響を及ぼす場合もあります。多くの中東諸国は歴史的経験に基づいて欧米に不信感を持っています。同様のことは、一部の中東欧諸国とロシアの関係、一部の東南アジア・南アジア諸国と中国の関係についても言えます。
第2に、世界の多くの地域で自由民主主義が危機に直面している現在、自由民主主義と権威主義の対立が国際関係と最も密接に関係しているのは、ユーラシアです。ロシアと中国の支配者は「カラー革命」を恐れています。特にロシアはグルジアやウクライナなど、民主的なスローガンを掲げ西側の支持を得た人々が政権を取った近隣諸国に対して、攻撃的な態度をとっています。ロシアの攻撃は非難されるべきですけれども、状況を複雑にしているのは、他の国々、最も典型的には中央アジアと中東の少なからぬ人々が、西側の民主主義推進に対するロシアの反感を共有しているということです。西側の態度は、異質な価値観を押しつける試みであり、国家・民族のプライドを傷つけ、主権を掘り崩すものだと認識されているのです。ヨーロッパにおいてでさえ、一部の右翼グループはプーチンを「伝統的価値観」の擁護者、望ましくないグローバル化の反対者として賞賛しています。このような意味では、ロシアは孤立していないのです。そしてロ中その他の国の内部では、権威主義的な指導者はその体制をアップグレードしています。国民の深刻な不満を引き起こすことなく権力を維持するために、さまざまな政治技術を駆使しているのです。(つづく)
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