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2018-04-16 00:00
“北朝鮮の核放棄”と“朝鮮半島の非核化”との違いは深刻
倉西 雅子
政治学者
金正恩委員長の突然の訪中により、北京で行われることになった中朝首脳会談では、両者は、“朝鮮半島の非核化”で合意したと報じられております。しかしながら、アメリカが求めてきた“北朝鮮の核放棄”と“朝鮮半島の非核化”では、雲泥の差があるように思えます。今のところ、アメリカのトランプ大統領は、中朝首脳会談での“朝鮮半島の非核化”方針について歓迎の意向を示しており、予定されている米朝首脳会談を楽しみにしているとツイートしたそうです。一先ずは、米中朝が足並みを揃えているようにも見えますが、既に、中朝の言う“朝鮮半島の非核化”とは、長期的には朝鮮半島からの米軍撤退を伴う米韓同盟の終了と朝鮮半島の中国勢力圏化を意味するとする指摘があります。この説では、北朝鮮の核放棄とアメリカによる中国の朝鮮半島支配の承認がバーターとなっており、南北両国の頭越しとなる事実上の“米中合意”、あるいは、“米中取引”ということになります。
“朝鮮半島の非核化”の意味が中国による朝鮮半島支配を意味する一方で、“北朝鮮の核放棄”は、あくまでも、国際法上の違法行為への制裁、あるいは、国際社会における平和への脅威の排除の文脈において捉えられる課題です。核兵器不拡散条約(NPT)体制の行方にも関わるため、国連における対北制裁決議等は、この文脈において成立している国際的な合意であり、日本国政府をはじめ、表向きであれ全国連加盟国が対北制裁の枠組に協力しています。そして、この立場で特に重要な点は、中国の覇権主義的北朝鮮危機の政治利用の思惑とは全く関係なく、国際法秩序を守るための米軍による軍事制裁が正当化されていることです。ここには、政治的妥協の入り込む隙はないのです。
以上に述べたように、“北朝鮮の核放棄”と“朝鮮半島の非核化”には、その本質からして政治問題と法律問題の違いがあるのですが、北朝鮮危機にあって漁夫の利を得たい中国が、巧妙に前者の方向へと誘導しようとしていることだけは確かです。また、北朝鮮の金委員長も、訪問先の中国では、自国が国連制裁対象国であることを忘れたかのように振る舞っております。となりますと、この問題は、“北朝鮮の核放棄”と核放棄後の朝鮮半島の将来像については一旦切り離した方が賢明なように思えます。乃ち、北朝鮮が無条件の核放棄に応じるまで、中国を含めた国際的な経済制裁の枠組を緩めることなく、否、より厳格に実施し、かつ、北朝鮮に核・ミサイル開発の時間的な猶予を与えないために、一定の期限を設定し、その間に北朝鮮が核放棄を実行しない場合には、軍事制裁を科すとするプロセスを検討すべきではないでしょうか。
仮に、トランプ政権が米韓同盟について再考し、朝鮮半島の現状を変更する方針にあるならば、北朝鮮の核放棄に伴う北朝鮮の現体制の変化を見極めた上で(体制崩壊もあり得る…)、別途、朝鮮戦争の当事国も参加する形で合意を形成するという方法もあります。中国主導による北朝鮮危機の解決、即ち、“朝鮮半島の非核化”路線は、東アジアにおける習独裁体制とその支配力の歯止めなき膨張に繋がりかねません。“赤い帝国”の拡大は、日米を含む周辺諸国の安全を根底から脅かすと共に、国際社会の無法化をも意味するのですから。
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