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2018-04-05 00:00
(連載1)日本政府はなぜトランプに足元をみられるか
六辻 彰二
横浜市立大学講師
トランプ政権の強引なアプローチが日本にも本格的に向かい始めました。3月8日に導入された鉄鋼・アルミ関税の引き上げが23日に発効。EUや韓国などが「安全保障上の理由」から最終的に除外された一方、日本は中国、ロシアとともに適用対象に残りました。この期に及んで、いくら「日本は米国にとって(中ロと異なり)安全保障上の脅威ではない」と陳情しても、米国政府が納得するとは思えません。トランプ氏がいう「安全保障」は方便に近いからです。トランプ政権はリスク分散をせずに米国に頼る日本の足元をみているのであり、そのような陳情はむしろこの関係を浮き彫りにするといえます。トランプ政権はこの他、3月22日に中国の電化製品などに対する関税引き上げも発表しており、一連の保護主義的な措置は「貿易戦争」の懸念も呼んでいます。しかし、中国への関税導入に関してエコノミストの池田雄之輔氏は「貿易戦争もいとわない強硬策」というより、中間選挙向けの宣伝や相手国に対する交渉材料といった戦術的側面が強いと分析。その根拠として、決定内容が事前の予測より以下の3点で大幅に穏当な内容だったことを指摘しています。(https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-yunosuke-ikeda-idJPKBN1GZ0ZA)
関税規模が大幅に縮小された(関税規模そのものが600億ドルという予測もあるなか、600億ドルの輸入品に25パーセントの課税で150億ドルになった)。課税までの猶予がある(即日実施ではなく、対象品目の特定に15日間、ヒアリング期間に30日が設けられ、柔軟化の余地がある)。国際ルールを全く無視したわけでない(米国製品に対する中国の参入障壁に関しては、世界貿易機関の紛争解決メカニズムを利用する)。いずれも頷けるものです。つまり、トランプ政権は「貿易赤字を削減する」という目的のもと、あえて傍若無人にふるまって、相手に譲歩を迫っているとみられます。ただ、池田氏の論考でその部分は触れられていませんが、鉄鋼・アルミ関税の引き上げも「戦術」だったとすると、「この措置を受けて日本との交渉がしやすくなる」と米国はみていることになります。トランプ政権が日本との交渉を有利にしようとする最大のテーマとしては、日米の自由貿易協定(FTA)があります。「アジア諸国の不公正な取引」が米国の貿易赤字の原因の一つと捉えるトランプ政権は、環太平洋パートナーシップ(TPP)から離脱し、米国により有利な条件で各国と個別にFTAを結ぶことを要求してきました。多国間交渉と比べて、二国間交渉は力関係がそのまま交渉結果に反映されがちです。農産物などで一層の市場開放を求められる警戒感から日本政府はFTA交渉を避け続け、2017年11月にトランプ氏が訪日した際にも、北朝鮮情勢などとともにこの問題が取り上げられたものの、交渉開始時期は定められませんでした。米政府内にはこの当時「(やはり米国の貿易赤字を生んでいる)韓国とのFTAの修正協議や中国との貿易・投資交渉が先」という考え方がありました。これは日本が「うやむや」で済ませられた一因でした。
ところが、米国はその後、韓国との交渉を加速。トランプ政権は「現状のFTA破棄」すら匂わせ、この圧力によって韓国政府をFTA再交渉に向かわせただけでなく、武器輸入も増加させました。その結果、韓国は鉄鋼・アルミ関税引き上げの対象から除外されたうえ、日本や中国への関税引き上げが発効した23日にトランプ氏は韓国との貿易交渉が「素晴らしい成果」を収めつつあると発言しています。つまり、韓国との交渉が終結に近づいたことで、後回しになっていた日本や中国への圧力が本格化したといえます。
トランプ政権の露骨な圧力に対して、日本の立場はもろいといわざるを得ません。そこには3つのポイントがあります。第一に、北朝鮮問題です。もともと日米同盟が片務的で対等でない以上、日米当局者がいくら「友人関係」を演出しようと、米国の発言力が強くなることは避けられません。そのうえ、北朝鮮情勢はこれに拍車をかけてきたといえます。北朝鮮による核・ミサイル開発は今に始まったものではありませんが、トランプ政権による威圧的な行動により、昨年4月以降その緊張は急速に高まってきました。ホワイトハウスの計画通りなのか、結果的にそうなっただけかは定かでないものの、少なくとも切迫する北朝鮮情勢が日本における米国の存在感をこれまで以上に高めていることは確かです。とりわけ安倍首相が「日米の方針は完全に一致」と強調するなかでは、なおさらです。第二に、中国との関係です。トランプ氏の主な標的が中国である以上、「関税引き上げの免除」そのものが「他の国を米国側につかせる手段」となります。他の条件もあるにせよ、鉄鋼・アルミ関税の引き上げの対象から外されたEU、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジルなどは、摩擦を抱えながらも、中国と必ずしも対立一辺倒でなく、程度の差はあれ多くが中国の「一帯一路」構想にも協力的です(昨年5月の「一帯一路」会議にアルゼンチンは大統領、オーストラリアは閣僚を送っている)。つまり、中国に近づく国への関税引き上げを免除することは、米国にとっていわば「まき餌をまく」効果があります。逆に、最近でこそ改善の兆しがみえるものの、日中関係が大きく変化する見通しはほとんどありません。日本が中国に近づかないことは、トランプ氏にとって「日本に遠慮しなければならない」必然性の低下を意味します。第三に、二国間の貿易問題に限っても、日本が米国と正面から衝突することはほとんど想定できません。「日本が米国に物を言えない」というのはよく聞くことですが、実際にどの程度日本が米国に対して静かだったかは、世界貿易機関(WTO)のデータからうかがえます。(つづく)
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