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2018-03-19 00:00
(連載1)トランプ‐金正恩会談に期待できないこと、期待できること
六辻 彰二
横浜市立大学講師
3月9日、韓国政府は「金正恩総書記がトランプ大統領との会談を提案したこと」と「トランプ大統領が非核化実現のために5月までに会談を行うこと」を相次いで発表。北朝鮮情勢は大きな転機をむかえています。以前から述べているように(『南北「五輪外交」に期待できない理由―米中「ピンポン外交」との対比から』https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20180208-00081368/)、米朝会談が実現しても、「北朝鮮の核廃絶」はほぼ期待できません。しかし、今回の会談には、少なくとも高まった緊張を和らげる効果を期待できます。その緊張緩和を少しでも続けるなら、トランプ政権はオバマ前大統領の「戦略的忍耐」に近いものに回帰せざるを得ないとみられます。ただし、オバマ政権の時代は米国の一方的な「忍耐」でしたが、もし米朝協議で(根本的な解決は無理でも)緊張緩和への道が開くなら、北朝鮮側も「忍耐」を余儀なくされます。それは「戦略的共存」とも呼べる状態です。韓国政府が平昌五輪をきっかけに働きかけを続けた米朝会談に、北朝鮮側が徐々に応じる姿勢をみせてきたことに、トランプ大統領や日本政府は「制裁の効果によるもの」と自らの成果を誇示してきました。北朝鮮への制裁に全く効果がなかったわけではありません。しかし、ここで重要なことは、制裁を加えてきた側にも、もはや打つ手はほとんど残されていなかったことです。
2017年7月に成立した包括的な経済制裁の導入により、これ以上の禁輸措置には限界がありました。経済制裁は一種の「諸刃の剣」で、そのリスクの一つには「最後から二番目の選択肢」であることがあげられます。つまり、それを実行して期待された成果が得られなかった場合、あとは基本的に軍事行動しか残らなくなりますが、それは制裁を行う側にとっても大きなリスクになります。既に核兵器を備えている北朝鮮が相手であれば、なおさらです。トランプ大統領は昨年4月シリアへ突然ミサイル攻撃を行い、「大量破壊兵器を使えばこうなる」と北朝鮮に警告。北朝鮮ばりの「瀬戸際外交」を展開するなか、米国が北朝鮮への制裁や圧力を矢継ぎ早に強めることは、北朝鮮と一緒になって緊張をエスカレートさせるものとなっていました。結果的に次に打つ手に困っていたトランプ大統領にしてみれば、北朝鮮が韓国の働きかけに応じる形で協議を提案したことは、「渡りに船」でもあったといえます。ただし、もちろんそうはいえないので、米国としては「制裁の効果」を強調せざるを得ません。少なくとも、今回の協議はどちらか一方が圧倒的に有利というより、「痛みわけ」によるものといえます。こうしてみたとき、金正恩氏が「会談に応じてやった」という態度で臨んだとしても、故のないことではありません。いずれにせよ、「全ての成果は自分にあり、全ての問題は相手のせい」と言いたく、またそのように振る舞う点で、米朝首脳は似た者同士ともいえます。
ただし、米朝協議が実現したとしても、全てが解決するわけではありません。とりわけ重要なことは、トランプ大統領は「朝鮮半島の非核化」を強調しますが、北朝鮮にとって核・ミサイルがほぼ唯一の交渉材料になっている以上、米国の要求に沿って彼らがそれを放棄することは、ほぼあり得ないことです。つまり、米朝協議によって「朝鮮半島の非核化」が実現すると想定することはできません。その一方で、同時に重要なことは、両首脳がお互いに「相手も望んでいるなら会ってやらないでもない」と会談に臨むことで、少なくとも朝鮮半島の緊張が緩和されることです。米朝がお互いに手詰まりになり、緊張だけが高まる状況をみれば、この協議では「要求を引き下げることで事態を打開する」ことが米朝に期待されるといえます。
北朝鮮にとって最大の目標が「体制の維持」である一方、北朝鮮情勢をめぐる米国の最優先課題が「核戦争を避けること」にある構図は、何一つ変化していません。このなかで双方が一番とりつけやすい合意は、中ロが提案してきた「北朝鮮の核・ミサイル実験の停止」と「制裁の一部緩和」を抱き合わせにすることです。もちろん、これはどちらにとっても最上の結論ではありません。北朝鮮にしてみれば、「米国と(対等の)平和条約を結んで体制を護持する」というゴールに、はるかに及びません。米国にしてみれば、「朝鮮半島の非核化」を約束するものではありません。実際、トランプ大統領は「非核化が実現するまで制裁は維持する」と強調しています。(つづく)
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