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2018-03-12 00:00
AIの弱点-人の感情が読めない
倉西 雅子
政治学者
最近のメディアの報道ぶりからしますと、近い将来、人類は、AIに支配されそうな予感がします。しかも、独占的なプラットフォームを構築した米中の情報通信企業が世界を二分する勢力図が描かれ、他の諸国は、ニッチ戦略をとるしかサバイバルの道はないとする意見さえ聞こえてきます。しかしながら、AIには、重大な弱点があるように思えます。それは、高度な情報分析や複合的な要因が絡み合う複雑な問題に対して自発的に解を導くことができても、感情がないという点です。AIの無感情性は、感情を交えてはならない分野では、存分にその威力を発揮します。好悪、怒り、自己愛といった主観的な感情は、しばしば人間の判断力を曇らせ、誤った判断に導くからです。人間の感情に起因するヒューマン・エラーを回避し、あらゆる偏見を排して的確、あるいは、最適解を得たいならば、人間よりもAIの方が優れているかもしれません(もっとも、AIにインプットされたデータに偏りがある場合には、AIもまた、完全に客観的な判断を下せなくなる…)。将来的には、データの客観性が確保されている場合には、こうした分野においてこそ、AIは幅広く実用化されてゆくことでしょう。
その一方で、メディアが喧伝しているように、ビックデータの活用により商業やサービス業等にまでAIが進出するのか、と申しますと、それは些か懐疑的にならざるを得ません。もちろん、事務的な作業についてはAIに任せられる業務もありましょうが、一般消費者や顧客を相手とする業種に関しては、AIの無感情がその普及を妨げる可能性があります。先日、顔認証システムをファースト・フードの店舗に取り入れれば、新たなサービスが開発されるとする記事が新聞に掲載されていました。それは、顧客が店内に入った途端、設置されたカメラによる映像情報からAIがその人が誰であるのかをアイデンティファイし、過去の注文履歴から解析してその日の推薦メニューを提示するというものです。アマゾンでも、実店舗の天井にカメラを設置し、顧客がそのお店を出るときには、その人が店内で購入した商品を全てスマホ決済で済ませてしまうというシステムを開発中なそうです。
ところが、人間には、自らの行動に関する情報を他者に知られたり、他者から監視されることに対する不快感、あるいは、羞恥心という感情があります。個人情報がプライバシーとして法的に保護される理由も、公や他者に関わらない限り、自己に関する私的情報は自らの権利であるとするコンセンサスに基づいています。ところが、AIの活用によって誕生する新たなサービスの大半は、個人情報の大量集積に基づくものですので、否が応でも、人々の不快感や羞恥心を刺激してしまうのです。例えば、お店に入った途端に、顔認証と過去のデータからとんでもない商品やメニューを店内の掲示画面で提示されましたら、怒り出したり、赤面する人も少なくないはずです。また、犯罪防止目的を越えて、始終カメラ等で監視されているとなりますと、居心地の悪さにお店から飛び出したくなるかもしれません。AIはデータ解析はできても人の感情を読めませんので、顧客の心を掴むのが苦手なのです。
もっとも、こうしたAIの弱点は、中国といった全体主義国では、国民統制のための強力な手段となります。国民の感情を無視して私的領域にまで政府が踏み込み、その一挙一動を監視することができるからです。このように考えますと、少なくとも自由主義国では、AIの普及には限界があるように思えます。科学技術の発展が人類を幸せにするのか、ここで一旦立ち止まり、深く考えてみる必要がありそうです。
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