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2018-02-19 00:00
ドイツの影が見えるIOC会長の訪朝
倉西 雅子
政治学者
“オリンピック外交”という用語まで登場し、すっかり政治化してしまった平昌オリンピック。トーマス・バッハIOC会長の訪朝までが取り沙汰されており、オリンピックの政治色は濃くなるばかりです。“スポーツの舞台に政治を持ち込まない”がオリンピックのモットーであったにも拘わらず、IOC会長自らが朝鮮半島問題に首を突っ込もうとするのですから、これは尋常ではありません。それでは、朝鮮半島とは無関係なはずのバッハ会長が訪朝する背景には、一体、何があるのでしょうか。
バッハ会長の訪朝の理由は、北朝鮮側の招待に応えたとするものであり、平昌オリンピックを舞台とした南北融和を梃子に国際的制裁網を何としても緩めたい北朝鮮側の思惑が透けて見えます。その一方で、安易に北朝鮮側の要請に応じたバッハ会長側にも、何らかの意図が隠されているように思えるのです。第一に考えられる点は、バッハ会長の個人的な野心です。南北融和に積極的に関わり、何らかの成果をあげることができれば、出身国であるドイツ国内において、政治家として一定の評価を得られることができるかもしれないからです(結果的に、北朝鮮の核開発を止めることができなければ、逆に、評価が落ちる可能性も…)。すなわち、政治・外交に関与することで、バッハ会長は、将来における政治家等(ドイツ大統領?)への転身の道を開こうとしているのかもしれません。
第二に推測されるのは、バッハ会長が、ドイツ政府の意向を受けて行動している可能性です。メルケル独首相は、以前より北朝鮮問題ついては対話による解決を訴えてきました。開会式前夜のレセプションでは、北朝鮮との接触を警戒したペンス米副大統領は5分で会場を後にしましたが、文在寅大統領が着席する主賓席テーブルの席順を見ますと、バッハ会長夫妻に加えて、ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領夫妻も同じテーブルに席が用意されています。このことは、各国首脳の欠席が相次ぐ中、ドイツが大統領の出席を以ってホスト国である韓国に最大限の配慮を示したことを物語っています。そして、韓国もまた、元より対話路線を支持してきたドイツ政府を取り込むことで、国際的孤立を回避しようとしたかもしれないのです。
第三の憶測としては、話し合い解決に持ち込みたい国際組織の意向です。上述したレセプションの主賓席には、アントニオ・グテーレス国連事務総長も着席しており、バッハ会長は、国連側の働きかけを受けた可能性も否定はできません。以上に3つの可能性を述べてきましたが、何れにしましても、今般のバッハ会長の動きには、北朝鮮問題をめぐる国際社会、特に、メルケル首相率いるドイツの現政権の動向が影響しているように思えます。そしてそれは、朝鮮半島南北の思惑とも一致しているため、国際社会で構築してきた対北制裁網を危うくしかねない重大なリスクを含んでいるのではないでしょうか。
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