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2018-02-13 00:00
ユーロと仮想通貨
倉西 雅子
政治学者
2002年1月1日、EUでは、ユーロ導入国の間で単一通貨が域内を流通することとなりました。これを機に、貨幣史の流れは一気に“統合”の方向に向かい、他の地域での導入や“世界通貨”の可能性まで検討されたのですが、今日、仮想通貨の登場は、その方向性を逆転させているかのようです。
EUの金融・通貨統合を支えたのは、最適通貨圏理論と呼ばれる経済理論であり、その主唱者であったロバート・マンデル氏は、ノーベル経済学賞を受賞しております。同理論では、複数の諸国の間で通貨を統合するメリットが論じられており、概要を述べれば、各国において景気の波動が異なる場合、単一通貨を導入した方が市場の自律的調整力が働き(好景気の国から不景気の国への通貨移動によるマネー・サプライの調整…)、広域的な経済安定化効果を期待できるというものです。市場の自律的調整力の他にも、金融・通貨統合のメリットとして為替リスクや両替コストの完全なる消滅や国際基軸通貨化なども挙げられており、EUがユーロ導入に踏み切ったのも、こうしたプラス面を積極的に評価したからに他なりません。しかしながら、ビットコインを始めとして世界レベルで様々な仮想通貨が発行されるようになった今日、通貨の数は逆に増加に転じ、国レベルで見ても、自国通貨と平行して仮想通貨が使用されるという“分裂”状況を呈しています。つまり、仮想通貨の登場と同時に、各国、並びに、EUのユーロ圏共々、“単一通貨圏”が崩壊しているのです。
ユーロ導入に際してあれほど声高に主張されたにも拘わらず、仮想通貨の取引については、その煩雑性やコストを問題視する声は殆どなく、単一通貨圏の崩壊への言及も見当たりません。仮に、複数の通貨の同時流通に何らの問題もないならば、ギリシャなどのユーロ導入国においても、自国通貨を復活させても然したる不都合は生じないはずです(ユーロと自国通貨が併存する状態…)。ユーロの評価については、ソブリン危機等の発生によりマイナス面をも勘案する必要がありますし、国家によって信用が保障されている公定通貨は仮想通貨ではありませんので、EUにおける自国通貨の復活問題は別に議論される必要もありましょう。その一方で、仮想通貨の評価については、ユーロ導入時の議論を思い起こす必要があるようにも思えます。貨幣の機能や信用に照らしますと、仮想通貨はいかにも不安定、かつ、不完全です。未だに流通量が低レベルにあるからこそ、それに内在するリスクの表面化は、相場の暴落やNEM流出といった一部に留まっているのかもしれないからです。
仮想通貨に伴う単一通貨圏崩壊に対して、マンデル氏は、果たしてどのように論評するのでしょうか。あるいは、仮想通貨には特定の国の色がなく、国境を越えて取引される点にのみに注目して、これを使用する“個人間”では“最適通貨圏”が成立しているとして是認するかもしれません。しかしながら、仮想通貨の数や取引量が増加していくにつれ、これまで隠れてきた様々な問題が表になり、そのリスクの高さに慄くことになるような気配がするのです。
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