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2018-01-25 00:00
(連載2)地球温暖化がイスラエル-パレスチナ紛争を加熱させる
六辻 彰二
横浜市立大学講師
両者にとって水の利用が重要テーマであるだけに、イスラエルとパレスチナ自治政府は他の問題での交渉が行き詰まりながらも、この問題に関する協議を続けてきました。2013年12月にヨルダンを交えた三者は以下の内容に関して合意しました。(1)紅海に面した(イスラエルと国交のある数少ないアラブの国の一つ)ヨルダンのアカバに淡水化プラントを建設し、年間3000万立方メートルの淡水をヨルダンに、年間5000万立方メートルの淡水をイスラエルに、それぞれ供給する、(2)淡水の輸送のため、3億ドルを投じてパイプラインを建設する、(3)海水を淡水化する過程で発生する、濃縮された塩水は、やはりパイプラインを通じて、水位が低下している(沿岸の一部が国連決議で定められたパレスチナ領にあたる)死海に輸送して廃棄する、(4)パレスチナ自治政府もイスラエルから年間3000万立方メートル購入できる。
この合意に関して、濃縮された海水を死海に放棄することが環境にもたらす悪影響への懸念も指摘されましたが、既に水不足が深刻化していたイスラエルのシャロン水・地域協力相(当時)は「歴史的」と自賛。ただし、パレスチナへの水輸出はヨルダン川西岸に限定され、イスラエルへの攻撃を辞さないイスラーム組織ハマスが支配するガザ地区は除外されました。これに続いて2017年7月に両者は、2013年の内容を拡張させて以下の各点に合意しました。(5)アカバの淡水プラントからパレスチナのヨルダン川西岸(2200万立方メートル)、ガザ(1000万立方メートル)に年間3200万立法メートルの淡水を輸送すること、(6)5年以内に世界銀行の支援のもとでパイプラインを建設すること、(7)パレスチナ自治政府はイスラエルから淡水を購入すること。
この合意の成立後、イスラエルのハネグビ協力相は「双方の緊張を緩め、融和に繋がる」と評し、仲介役となった米国のグリーンブラット特使も「この新たな取り決めが相互の利益のための協力を促すことを期待する」と述べました。犬猿の仲であっても、どちらか一方が全ての水利を握れない、言い換えるならどちらかが全面的に勝てない状況にあっては、「合意できるところから合意していく」ことは現実的ともいえます。ただし、この合意が結ばれても、イスラエルがヨルダン川西岸の占領を継続している以上、パレスチナ自治政府による水資源の利用は制限されています。したがって、この取り決めでイスラエルへの依存度が高まれば、「パレスチナ国家の独立」に関する最終交渉におけるイスラエルの優位を固定するものになりかねないという懸念がパレスチナ側にあることは、不思議ではありません。2017年7月の交渉結果を受けて、パレスチナ自治政府の水問題担当のゴネイム氏は「イスラエルの占領が続く限り危機は終わらない」、「今回、認められた我々の水に関する権利は、もともと我々の権利だ。なぜなら死海にはパレスチナの領海線もあるからだ。したがって、この取り決めが我々の独立に関する最終合意に影響を及ぼすことはない」と強調しています。
この背景のもと、冒頭に述べたように、イスラエル-パレスチナの一帯では近年、降雨量が減少しているのです。2013年や2017年の取り決めは、主に紅海沿岸のアカバにおける淡水プラントで生産された淡水の流通を主なテーマとしており、水の安定的確保を重視しています。ただし、ヨルダン川沿岸での水量が今後さらに不足した場合、海水を淡水にするプラントの需要はさらに高まることが想定されます。ところが、干ばつが発生した場合、イスラエルからパレスチナにどの程度が販売されるのかの対応は、確認される範囲で、2017年の取り決めで定められていません。2016年6月、水が最も不足する時期に、イスラエルからパレスチナへの水供給量が突如として通常の30~40パーセントに激減。ヨルダン川西岸では水価格が高騰しました。これに関してイスラエル当局は「技術的な問題」と説明しましたが、パレスチナ側では「水を兵器にしている」という批判が高まりました。今後ヨルダン川沿岸での水量が減少すれば、イスラエル政府は国内政治の観点からユダヤ人入植者のニーズを優先的に満たさなければならず、2017年の取り決めで定められたパレスチナへの水供給が実現しない可能性すらあります。それはひいては生活状況のさらなる悪化とともに、イスラエルへの不満を増幅させかねないといえるのです。(おわり)
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