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2007-04-16 00:00
温家宝中国総理の国会演説の印象
田島高志
東洋英和女学院大学大学院客員教授
今回公式訪日した中国の温家宝総理は、12日中国指導者としては22年ぶりに国会演説を行なった。その内容は、現在の胡錦濤政権の政治、経済及び文化を含む全般的な対日政策に関する基本的考え方を初めて公開の場で表明したものであり、的確な分析を要するであろうが、私の取りあえずの印象は次の通りである。
先ず、演説全体を通じて言えば、安倍総理の訪中により膠着状態から脱却した日中関係をさらに前進させようとの積極的な姿勢が基本に貫かれていたことが評価される。ただ、その内容は、日本側に伝える目的のみでなく、中国側の保守派及び民衆にも伝える目的もうかがわれる点が注目された。それは、おそらく現下の中国国内には多様で複雑な対日観の存在する事情を反映しており、現政権として対日関係改善を進める政策への国内の理解と支持を確保する意図によるものと解される。
次に、個別の注目点を挙げれば、第一に、歴史問題についてかなり長く言及したが、「中国人民は日本国民と仲良く付き合わなければならない」と述べ、日本政府と指導者が「何回も」態度を表明し、侵略を公に認め、深い反省とお詫びを表明したことを「中国政府と人民は積極的に評価する」と述べたことは、江沢民時代に繰り返しお詫びを日本側に要求した態度と一変しており、「何度謝ればよいのか」「土下座外交か」との反発の声もあった日本側の感情にも配慮した前向きの発言と言えよう。
第二に、「日本は戦後平和発展の道を選び、世界の主要な経済大国となり、国際社会に重要な影響を与える一員となった」と述べ、戦後日本の平和国家としての発展と国際社会における日本の影響力を認識する旨を明確に表明した点が注目される。
第三に、「中国の改革開放と近代化建設は、日本政府と国民からの支持と援助を得ることが出来た。これについて中国人民は永遠に忘れることはない」と述べた点は、日本の経済援助を中国首脳が公式に公開の場で明確に評価する発言を行なったものであり、日本国民に対して中国側が援助を感謝していることを伝える意味を持つのみでなく、中国の民衆に対して中国が日本の援助を受けていることを広く伝えるために重要な意味があると見られる。
第四に、今回の訪日の目的が日中間の「戦略的互恵関係」の具体化にあったことを踏まえ、エネルギー、環境など主要な共通課題での協力、文化交流、青少年交流などの実現に言及があったことは当然であるが、日本側の強い関心事項でもある東シナ海における共同開発問題については、従来の「平和、友好、協力の海にする」との点を繰り返すに留まった。これは、中国側の政府及び軍の内部でこの問題の具体的処理策がまだ固まっていないことを示すものと解される。
第五に、国連改革について、「日本が国際社会でより大きな役割を果したい願望を持っていることを理解し」「日本側と対話と意思疎通を強化したい」とのみ述べた点は、日本の国連安保理常任理事国問題については依然慎重であり、現状では無難な表現に留まったものと言えよう。
第六に、台湾問題については、中国側にはやはり「台湾独立」への警戒心の強いことが示され、台湾問題は「高度に敏感」な問題であり、日本側の慎重な処理を希望する旨強調した点が留意される。
第七に、中国の国内問題であるが、中国は経済発展と社会的公平の推進という「二つの任務」に直面している旨率直に述べており、それを共に達成するため市場経済を志向する「経済体制改革」と民主政治を発展させる「政治体制改革」という「二つの改革」を行なわねばならないと述べたことが注目される。現在中国では、この二つの任務と改革のどちらを優先すべきかについての大論争が経済学者の間で起っていると言われるが、演説は、政府としては両者の「調和のとれた」同時実現を目標とする姿勢を示したものと言えよう。
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