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2018-01-09 00:00
中国市場に期待するより中国企業に警戒を
倉西 雅子
政治学者
近年、2030年頃にはGDPにおいて中国がアメリカを追い抜き、世界第一位の経済大国に躍り出るとする予測を目にするようになりました。こうした予測の根拠は、13億を数える中国の人口規模にありますが、この予測が正しければ、日本国は、中国市場に期待するよりも、巨大化する中国企業こそ警戒すべきではないかと思うのです。経済成長率が6.5%程度に減速したとはいえ、日本国内には、中国の経済成長をビジネスチャンスとして歓迎する声は少なくありません。少子高齢化により国内市場が縮小傾向にある日本国では、なおも拡大を続ける13億の中国市場は、製造拠点、消費市場、投資先等の何れの面においても魅力的です。しかしながら、市場規模と企業規模は比例する点を考慮しますと、この歓迎論は楽観的に過ぎます。
例えば、80年代にヨーロッパにおいて試みられた市場統合は、欧州企業の規模の拡大を意図していました。市場が中小の国ごとに細分化された状態では、日米等のハイテク企業が凌ぎを削るグローバルな国際競争には生き残れないとする危機感が、欧州市場の誕生を後押ししたのです。かくして、規模においてアメリカを凌ぐ人工的な巨大市場が出現したのですが、この点、中国は、市場規模に苦労する必要はなく、既に国内市場のみで世界一の規模を誇ります。このため、中国の国内市場の成長は、即、中国企業の競争力伸長を意味するのであり、技術的劣位も、グローバル化を追い風とした技術移転や企業買収等により容易に克服し得ます。昨年、東芝の家電部門が中国の美的集団に買収されましたが、この事例は、日本企業が中国市場においてシェアを伸ばすのではなく、多国籍化した中国企業が、日本市場の一角を占めてしまう展開の先例となりました。今後も、“規模の経済”を背景に、資金力にものを言わせた中国企業による日本企業の買収が続けば、やがて、日本経済は中国経済に飲み込まれ、日本企業は消滅の危機を迎えないとも限らないのです。
しかも、政経一致を旨とする共産党一党独裁体制が堅持されている中国では、政府系企業が幅を利かしており、民間企業もまた、法律によって共産党員の受け入れを義務付けられています。乃ち、中国企業の海外進出には、進出先の国における中国の政治的影響力、否、支配力の浸透を伴うのです。その一方で、中国は、自国企業を保護・育成し、併せて体制を維持するために、国境に見えない“万里の長城”を建設しています。
人口規模において国家間に先天的な条件の違いがある場合、レッセ・フェール的な自由貿易主義の貫徹が適切であるとは言えないように思えます。中国の鉄鋼の過剰生産問題に際しては、日頃は自由貿易主義の堅持を主張してきた諸国でさえ、これを自由貿易の結果として受け入れようとはしませんでした。13億の市場を背景に中国企業が全世界に事業を広げる今日、日本国を含め、巨大化する中国企業対策、そして、拡大至上主義や規模優位型経済からの転換こそ真剣に考えるべきではないかと思うのです。
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