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2017-11-28 00:00
(連載2)クーデタに揺れるジンバブエと中国の「二股」戦術
六辻 彰二
横浜市立大学講師
このような背景のもと、冒頭に述べたように、ジンバブエ軍の一部がハラレ近郊で軍事活動を開始。しかし、これは突然始まったものではなく、その予兆は今年夏ごろからみられていました。ムガベ氏は2018年の大統領選挙に立候補する予定でしたが、近年では健康不安説が流れており、頻繁にシンガポールの病院を訪れていたといわれます。その一方で、ムガベ氏は後継者を指名せず、足もとで派閥闘争がみられるようになったのです。一方には、エマーソン・ムナンガグワ副大統領を中心とするグループがあります。「クロコダイル」の異名をもつムナンガグワ氏は政権の実質的なナンバー2。南ローデシアの白人政権との内戦時代からムガベ氏と行動をともにしてきたため、軍や情報機関は総じてこちらを支持しています。
もう一方には、グレース夫人がいます。グレース夫人はムガベ氏の体調不良説が高まった7月、(夫の意向を無視して)「後継者を指名するべき」と発言。与党ZANU-PFには、党内改革や世代交代を求める比較的若い世代を中心とするG40(ジェネレーション40)と呼ばれる派閥があります。グレース夫人はG40を支持しているともいわれますが、先ほどの発言以来、グレース夫人自身が次期大統領ポストを狙っていることも公然の秘密として語られるようになりました。ムガベ氏の求心力低下にともない体制内の緊張が高まるなか、11月6日にムガベ氏はムナンガグワ氏を突如解任。副大統領職を追われたムナンガグワ氏は翌日には中国に向けて出国しました。これにより、グレース夫人が副大統領に収まるという観測も流れるなど、政争に決着がついたかにみえました。ところが、ムナンガグワ氏を支持するコンスタンチノ・チウェンガ司令官も8日に中国を訪問。そのチウェンガ司令官は13日、「ムナンガグワ氏のように国家独立に参加した者を排除することは許されるべきでない」と発言。その翌14日、冒頭に述べたように軍が行動を開始したことに鑑みると、この発言はグレース夫人やG40に対する宣戦布告だったといえます。
絶対的な権力をもつ者の求心力が低下した時、その権力をめぐって「独裁者」の足もとで争いが発生することは世の常です。クーデタを起こした軍は「ムガベ氏周辺の犯罪者」を標的にしており、「大統領は無事」という声明を出しています。チウェンガ司令官が率いる軍にとっても、ムガベ氏に危害を加えることで得られるものはないため、そのターゲットはあくまでグレース夫人とG40にあるとみられます。クーデタのゆくえはもちろん予断を許しません。しかし、少なくとも今回の出来事が、欧米諸国が期待するジンバブエの民主化をもたらすとは考えられません。ムガベ大統領と対立する欧米諸国はこれまで、ジンバブエ労働組合会などの民主化勢力を支援してきました。しかし、今回のクーデタはムガベ体制内部の権力闘争であり、政治活動が抑圧されているジンバブエでは民主化勢力がこの機に浮上することは想定できません。その意味で、クロコダイル・グループとG40のどちらが勝利するにせよ、今後ともジンバブエで決して民主的でない体制が存続することは想像に難くありません。その一方で、ムガベ体制を支援してきた中国にとって、この政争は基本的に「高みの見物」が可能なものです。
先述のように、中国は南ローデシアの内戦時代からZANU-PFを支援し、2000年前後からの欧米諸国との関係悪化のなかでその結びつきはますます強くなりました。そのため、ムガベ大統領だけでなく、クロコダイル・グループとG40のいずれもが、中国との友好関係を前提としています。実際にムナンガグワ氏が中国にいる以上、クーデタの結果がどちらに転ぼうとも、中国にとって対ジンバブエ政策を大きく転換させる必要は乏しいとみられます。したがって、今回のクーデタはムガベ氏個人の支配が終わりに近づきつつあることを示すものであったとしても、ジンバブエを取り巻く環境が大きく変わらないことをも示唆しているといえるでしょう。(おわり)
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