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2017-11-28 00:00
EUと“一帯一路”の合わせ鏡に映る哀れなギリシャの姿
倉西 雅子
政治学者
現在、ギリシャでは、ピレウス港の中国国有企業による買収に留まらず、不動産分野では外国人購入者の4割を占めるほど中国人による購入が増加しているそうです。ソブリン危機に端を発するギリシャ問題を見ておりますと、同国はEUと中国の“一帯一路”との二つの歪んだ合わせ鏡に映った奇妙な像のように思えてきます。EUも一帯一路も、共に国境を越えた広域的な経済圏構想である点において共通しています。EUは、2年以内にイギリスが離脱するものの、東方に向かって拡大を続けてきた歴史があり、中国の一帯一路は、終着地のイギリスを目指して西方へと延びつつあります。そして、ギリシャとは、まさしく東西が交差する両者の狭間に位置します。
EUでは、加盟国間の経済格差を是正するための政策を実施しており、一種の“財政移転”のメカニズムを内蔵しています。今日、EUで議論されている財政統合とは、この機能の強化に他ならず、欧州市場で実現した“もの、サービス、資本、人の自由移動化”が、必ずしも、全ての加盟国にプラス効果は及ぶわけではないことを示しています。言い換えますと、産業競争力の劣る国の市場は優位国の産品に席巻されると共に、優秀な人材は、国境を越えて移動可能ですので、より雇用条件の良い他の加盟国に流出してしまうのです。市場統合は、共存共栄の理想とは逆に加盟国間格差を広げかねないリスクがあります。また、ギリシャの場合、ユーロ導入により金融政策の権限も手放したため、財政危機に対して打つ手が限られてしまいました。
その一方で、同じく広域経済圏プロジェクトではあっても、中国の一帯一路構想には、EUのような統治機構は存在せず、共通財源も共通通貨もありません。域内諸国に対する財政支援的なシステムはAIIBによるインフラ融資ぐらいであり、共通通貨についても、域内貿易決済通貨としての人民元の普及を梃子とした“人民元圏”の自然的な形成を狙うという、別の手法が採られています。一帯一路構想に含まれる諸国では、既に、安価な中国製品が大量に流入し始めているそうですが、このことは、一帯一路構想においてギリシャの如く財政危機を抱える国が出現した場合(EUのような支援の枠組みがないので、ギリシャよりも悲惨に…)、中国マネーによってあらゆる資産が根こそぎ買い取られてしまう可能性を示しています。それは、インフラ施設や不動産等に留まらず、重要な輸出品である天然資源の採掘権や公営事業のコンセッションであったり、あるいは、徴税権といった政策権限であるかもしれません。このプロセスにあって、中国は、相手国に対する恫喝や脅迫手段として、強大な軍事力をも用いることでしょう。
現在と未来の二つの広域経済圏を合わせ鏡として見ると、そこには、両者の狭間に翻弄される今日のギリシャの姿が映っているように思えます。そしてそれは、少なくない数に上るであろう、将来の一帯一路域内諸国の姿でもあるのかもしれません。自国中心の広域経済圏の誕生は、巨大市場を背景に産業競争力を備えた中国にとりましては待ち焦がれていた“中国の夢”の実現なのでしょうが、中国経済に飲み込まれるリスクを抱えた諸国は、合わせ鏡に映された、西欧文明の発祥の地の一つに数えられるギリシャの今日の哀れな姿を、しかと見据えるべきではないかと思うのです。
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