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2017-11-27 00:00
(連載1)クーデタに揺れるジンバブエと中国の「二股」戦術
六辻 彰二
横浜市立大学講師
日本では必ずしも知名度が高くありませんが、欧米メディアでしばしば「世界最悪の独裁者」と呼ばれるのが、南部アフリカにあるジンバブエのロバート・ムガベ大統領です。ムガベ氏は今年で93歳。その高齢で最高責任者の地位にあること自体、ジンバブエ政治の歪みを象徴します。しかし、このムガベ体制は大きな転機を迎えています。11月14日、首都ハラレ近郊に軍の車両が展開し、いくつかの爆発が発生したと報じられています。これに関してジンバブエ政府は「SNS上のうわさ」と一蹴し、「クーデタの発生」を否定していますが、ジンバブエで軍が政治に介入する予兆は、この数ヵ月にみられていたものです。今回のクーデタがもたらす結末は、今しばらく見守るしかありません。しかし、いずれにせよジンバブエで民主化が進む見込みは、ほとんどないといえます。その背景には、ジンバブエの権力構造と中国の「二股」戦術があげられます。
欧米メディアで「世界最悪の独裁者」と呼ばれるムガベ氏も、かつては多くのジンバブエ人にとっての「英雄」で、欧米諸国との関係も良好なものでした。ジンバブエはかつて南ローデシアと呼ばれ、19世紀に入植した英国系白人の子孫が支配する国でした。1960年代から、白人支配に抵抗する黒人ゲリラ組織ZANU-PF(ジンバブエ・アフリカ民族同盟・愛国戦線)が台頭。「白人支配に抵抗するゲリラ」は当時「フリーダム・ファイター(自由の戦士)」とも呼ばれ、ムガベ氏はそのリーダーでした。内戦中、ZANU-PFは中国から軍事援助を受けていました。当時、東西冷戦を背景に、「反帝国主義」を掲げて開発途上国への進出を図っていた中国にとって、「フリーダム・ファイター」への支援は格好の宣伝材料だったといえます。西側諸国が白人政権に微温的な態度を保ったことも、これに拍車をかけました。白人政権とZANU-PFは最終的に、英国政府の仲介のもとで1979年に和平に合意。1980年、全人種に平等な権利を認める国として、ジンバブエは改めて独立。ムガベ氏はその立役者となったのです。
独立後、ムガベ氏は経済的な必要性もあって欧米諸国との友好関係を確立。その一方で、国内的には黒人と白人の共存を模索しました。当時のジンバブエでは、人口で1パーセントにすぎない白人入植者の子孫が耕作可能な土地の約半分を所有していました。このいびつな社会構造を解消するため、ジンバブエ政府は希望する白人地主から土地を買い上げ、黒人に配分する政策を実施。政治や社会の安定と、それに基づく経済成長は「ジンバブエの奇跡」と呼ばれ、欧米諸国から高く評価されました。しかし、1990年代の末頃から、ムガベ氏には権力の私物化が目につくようになります。その端緒は、1999年にコンゴ民主共和国の第二次コンゴ内戦で、同国のカビラ政権を支援するために1万人以上の兵員を派遣したことにありました。この際、カビラ大統領は10億ドルのダイヤモンド鉱山の権益をムガベ氏個人に提供することを約束し、これと引き換えにジンバブエ軍の派兵を引き出したといわれます。入れ違いに、この大規模派兵はジンバブエ政府に大きな財政赤字を残すことになりました。さらに、この頃からムガベ大統領より40歳以上若い妻のグレース夫人による、海外の高級ブランドショップでの「爆買い」が頻繁に目撃されるようになり、「グッチ・グレース」とあだ名されるようになりました。
ただし、「英雄」だったムガベ氏が「世界最悪の独裁者」と呼ばれるようになった決定的な転機は、2000年に「白人の財産を保障なしに没収すること」を認める法案を議会が可決したことにありました。「個人の私有財産の侵害」という人権侵害に、欧米諸国は強く反発し、多くの国が経済制裁を実施。「白人の人権が侵害されること」に対する欧米諸国の拒絶反応に対して、ムガベ大統領も「黒人対白人」の構図を強調し、欧米諸国との対決姿勢を鮮明にしていきました。それにつれて経済状況は悪化し、膨らんだ財政赤字を解消するために通貨ジンバブエ・ドルを乱発。その結果、2009年には2億パーセント以上のハイパーインフレが発生し、ジンバブエ・ドルの発行は停止。ムガベ氏は経済崩壊の責任として自らの失政ではなく「欧米の経済制裁」を強調し、欧米諸国との対立はますます深まりました。この対立のなかで存在感を増したのは、ZANU-PFと古い関係にある中国でした。2008年、米英が国連安全保障理事会でジンバブエに対する経済制裁を提案した際、中国はロシアとともに「内政不干渉」を掲げて拒否権を発動し、これを擁護。さらに経済破たん後には、ジンバブエでは輸出額の約3割を占めるタバコ葉の生産に中国からの投資や支援が加速し、その復興・成長に大きな影響力を示しました。(つづく)
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