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2017-11-02 00:00
“戦略的棄権”もあり得るのでは?
倉西 雅子
政治学者
参政権とは、国民の政治に参加する権利であり、選挙とは、国民がこの権利を行使する数少ない機会です。このため、投票所にて一票を投じる行為は、規範的な意味を込めて当然視されてきました。しかしながら、近年の政治状況を見ますと、“戦略的棄権”もあり得るのではないかと思うのです。
近年、若年層を中心とした投票率の低さが問題視され、政治への関心の薄さが民主主義の危機とされてきました。政治的無関心=低い投票率であるならば、確かに、投票率を上げるために投票を訴えることには意義がありますし、民主主義を守るためにも望ましいことです。しかしながら、どの政党の公約を見ましても、支持し得る政策と全く以って合意できない政策との“抱き合わせ販売”となっており、迂闊に一票を投じますと、“公約の誠実なる実現”を口実に、合意できない後者の政策まで押し付けられる可能性があります。また、選挙区によっては、政党間の選挙協力や配慮により、支持政党が候補者を立候補させていないケースも少なくありません。こうした場合、有権者は、選択のしようがなく路頭に迷うこととなるのです。
その一方で、“迷える有権者”に向けてか、ネット上のニューズなどでは、自らが投じる一票の死票化を避けるための“戦略的投票”などが紹介されています。支持する候補者の落選が確実な場合には、次善の策として勝ちそうな第二候補者に投じる、あるいは、落選させたい候補者の対抗馬に投じる、といった手法も、自らの一票を政治に活かす有効な手段の一つと言えましょう。しかしながら、次善策であれ、消極法であれ、マスメディアの基本的なスタンスが、“国民は、先ずは投票すべし”一辺倒であることに、まずもって、疑問を感じざるを得ないのです。
支持すべき候補者や全幅の信頼を置く政党が存在しない場合、投票の強要は“酷”ですらあります。悪徳事業者から不当な契約書へのサインを迫られているようにも感じられながらも、悪徳商法には定められているクーリングオフといった保護制度もないのです。すなわち、悪徳政党による詐欺的選挙で、既に投票してしまった有権者に対して、“有権者保護”の制度がないのです。特に今般の選挙では自民党の圧勝が予測されており、政権選択という意味では、既に趨勢が凡そ決せられているとされております。となりますと、選挙後にあって、自民党の公約に記された望ましくない政策の実現を阻止するためには、棄権者の多さ、即ち、投票率の低さは、国民が自民党の公約を丸呑みに支持しているわけではない根拠ともなります。今日の日本国の民主主義の危機は、与野党にかかわらず、日本国の政界全体に対する国民の不信と不審にあります。政治への無関心からではなく、こうした政界の現状に対する不満、不信任、そして統治制度の改革の要求等を表す国民の手段としての、“戦略的棄権”、あるいは、“積極的棄権”も、参政権の意義において、あって然るべきではないかと思うのです。
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