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2017-09-06 00:00
(連載1)領土拡張主義と特権グローバリズム
倉西 雅子
政治学者
80年代後半に鄧小平政権の下で中国が改革開放路線に舵を切ったことも手伝って、マルタ島における東西冷戦の終焉宣言以降、世界の様相は一変しました。経済分野では市場のグローバル化が急速に進展し、恰もイデオロギー対立はこの世から消え去ったかのような空気に覆われたのです。
しかしながら、今となってみますと、冷戦構造の崩壊と同時にイデオロギー対立が解消したとする認識には、あまりにも甘かったと言わざるを得ません。BRICSと総称された新興国は、グローバリズムの波に乗ることで急速に国力を伸ばし、今では、地域大国として頭角を現しています。21世紀は、ユーラシアの時代と持て囃されるのも、ユーラシア大陸に位置する大国の台頭が著しいところにあります。ユーラシアの時代は、海洋国家であるアメリカの衰退をも含意していますが、ソ連邦は消滅しても、依然としてロシアはプーチン大統領が軍事大国として周囲に睨みを利かせ、中国は、習近平国家主席が、目下、毛沢東体制の復活ともいうべき個人独裁体制の確立を目指して猛進しています。そして、インドもまた、軍事、並びに、経済の両面において大国への道を歩んでします。
それでは、これらの諸国が、かつての西側諸国と同様に自由で民主的な国家への変貌したのか、と言いますと、そうとは言い難い状況があります。上述したように、ロシアは、政経両面で共産主義を捨て、中国は、経済面では共産主義から脱したように見えながら、その実、共産主義よりも歴史を古く遡るユーラシア的価値観が、両国において表面化してきているからです。
ユーラシア大陸とは、歴史的には広大な草原地帯を様々な遊牧諸民族が割拠した地域であり、放牧を生活の糧とする遊牧民には国境や所有権の概念は希薄です。中国では、古来、“北馬”が漢人の農耕民にとって脅威であったのは、“匈奴”とも称された北方の騎馬遊牧民族が、暴力で“奪うこと”をも生業としてきたからです。加えて、同大陸東部は、他者の人格や生命に対する尊重も薄く、しばしば、掠奪のみならず、大量虐殺や住民の奴隷化が繰り返された地域でもありました。(つづく)
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