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2017-08-24 00:00
ASEAN諸国は法の保護を捨てるのか
倉西 雅子
政治学者
2017年8月7日からフィリピンで開催されていたASEAN閣僚会合は2日間の日程を終えて閉幕となりました。今年は、南シナ海問題にせよ、北朝鮮問題にせよ、中国への配慮が目立った会合となり、ASEANの結束にも乱れが見られます。しかしながら、巨額の経済支援を受けているといえ、中国への安易な妥協は、ASEAN諸国の命取りになるのではないでしょうか。
ASEAN諸国は、第二次世界大戦以前にあっては、何れも植民地支配に苦しんだ歴史をもつ諸国です。何故、植民地体制が成立したのか、軍事的に優位にある強国・国際組織による弱小国の植民地化は、当時にあっては、弱小国の主体性を認め、それを保護する国際法が十分には整備されていなかったことにも起因します。戦後、世界大で国民国家体系が成立し、民族自決、主権平等、民族・国民間の平等、内政不干渉等が国際社会の原則として確立したからこそ、今日の独立国家としてのASEAN諸国があるといっても過言ではありません。
ところが、南シナ海問題での中国による仲裁判決無視は、ASEAN諸国にも強い影響力を及ぼしている中国が、無法国家である現実を突きつけることとなりました。そして今般の会合では、ASEAN諸国と中国との間で南シナ海問題に関する行動規範を作成することで合意したことから、中国は、国際社会に向かって“当事者以外は口を出すな”とばかりに、国際法秩序の基盤を揺るがす全世界すべてに関わる問題であるはずの南シナ海問題を、中国・ASEAN問題に矮小化、限定化する口実として利用しています。この構図を国内の事件に喩えれば、武器を携帯した無法者が近隣の一般住民を脅迫する、あるいは、賄賂を贈って同意を取り付け、刑法の適用を排除した上で公道や公園を私用のために占領するようなものです。こうしたケースでは、いくら近隣の人々の同意を取り付けたとしても、公有地の占拠という犯罪は刑法の適用範囲となります。にもかかわらず、無法者は、自分達で独自の法をつくったからといって、刑法の適用除外を主張しているようなものなのです。そして、この賄賂を受け取った住民にも、やがては無法者に囲い込まれて支配され、搾取される運命が待ち受けているのです。
南シナ海問題における中国への妥協は、それが、国際法秩序の根幹に関わるだけに、自らを保護する法というものを失うことを意味します。これでは自殺行為と言わざるを得ず、ASEAN諸国の将来を憂いざるを得ません。中国が露骨に侵略や植民地化に邁進した時、ASEAN諸国は、一体、どこに自らの正当性と救いを求めるのでしょうか。リスクを背負う、あるいは、中国からの支援という利益を犠牲にしても守るべきものは何か、この問題は、中国と共に、ASEAN諸国の国際法秩序に対する姿勢をも問われていると思うのです。
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