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2017-07-10 00:00
アメリカが対北武力行使を選択する可能性
倉西 雅子
政治学者
北朝鮮のICBM発射実験の成功により、親北識者の多くは、アメリカが軍事力を行使する可能性は著しく低下したとする見解を示しております。日本や韓国といった同盟国のみならず、アメリカ本土が核攻撃を受けるリスクが格段に高まった以上、トランプ政権が自国民を犠牲にするはずはない、と。その一方で、ヘイリー米国連大使は、国連の安全保障理事会の席で北朝鮮に対する軍事力行使の用意がある旨の発言をしています。この発言は、上記の見解からしますと一種の“はったり”となるのでしょうが、アメリカが武力行使に踏み切る可能性はゼロではないと思うのです。
第1に、北朝鮮が開発したとされるICBMはロフテッド軌道を飛行するタイプであり、2000キロメートル越える上空まで高度を挙げてから落下するために、着弾時には通常の迎撃システムでは対応不可能なほど高速化します。今般の「火星14号」の実験では、高度2600キロメートル、水平飛距離900キロメートル、飛行時間40分であり、通常の軌道で換算すればICBMのレベルに達しているとされています。このデータは、仮に、現時点で北朝鮮がアメリカをICBMで攻撃しようとすれば、通常軌道を選択せざるを得ないことを意味します。
第2に、通常軌道であれば、現行のミサイル防衛システムでの対応が可能であり、むしろ、ミサイル迎撃システムであるTHAADの配備と運用開始が重要な鍵を握ります。同実験後、中ロは北朝鮮問題の解決方針として共同声明を発表していますが、両国ともTHAADの韓国配備には強固に反対しており、今般の安全保障理事会でもロシアはTHAAD配備を見送るようアメリカに強く求めています。その理由は、THAADが運用されれば、北朝鮮のみならず、中ロの核攻撃能力が無力化されるからなのでしょう。言い換えますと、THAADの本格運用が始まれば、アメリカは、北朝鮮による報復を恐れる必要が大幅に低下するのです。
第3に、たとえ北朝鮮、あるいは、中ロがロフデッド軌道でICBMをアメリカを標的に発射したとしても、アメリカは、既に高高度ミサイル防衛システムであるGBIの実験に成功しています。また、ロフテッド軌道には上昇時において低速となるという弱点もあり、即応体制が整えば、発射直後の低位置での破壊も不可能なわけではありません。THAADの正確な能力は不明ですが、中ロの“焦り”からしますと、あらゆるミサイルの発射を感知する能力を備えているのかもしれません。以上の点を踏まえますと、アメリカは、現時点では、北朝鮮からの“報復”をそれ程怖れる必要がない立場にあります。もちろん、アメリカの決断はTHAADの能力にも左右されるのでしょうが、対北武力行使は、決して非現実的な選択肢とは言えないのではないでしょうか。
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