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2017-06-26 00:00
一帯一路構想と南シナ海囲い込み
倉西 雅子
政治学者
中国は、近年の急速な経済発展とそれに伴う軍事力の増強を背景に、経済面では自国中心の経済圏構想、即ち、一帯一路構想を掲げる一方で、政治面では、国際仲裁の判決を無視する形で南シナ海の軍事拠点化を強行しています。しかしながら、中国は、政経両面の二つの政策が矛盾していることには気が付いていない、あるいは、気付いていないふりをしているようです。
中国の説明によれば、一帯一路構想とは全世界に開かれた経済圏であり、モノや人等の自由、かつ、活発な往来が経済圏全体を豊かにするとしています。インフラ投資を目的として設立されたAIIBも、この構想の一環と言えます。アメリカがトランプ政権の下で保護貿易色を強める中、中国は、グローバル経済の盟主を自負しており、経済面では、“移動の自由”の促進を謳っているのです。AIIBに参加している、あるいは、一帯一路構想に賛同している諸国は、中国の掲げるグローバリズムの理想に共鳴しているのでしょう。しかしながら、中国が、本心から開かれた広域経済圏を目指しているのか、と申しますと、これは、相当に怪しくなります。何故ならば、南シナ海では、自らの説明とは真逆の行動をとっているからです。
常設仲裁裁判所における判決において問題視されたのは、中国が、歴史的、並びに、法的根拠を欠くにも拘わらず、国連海洋法条約を無視し、「九段線」の主張の下で一方的に南シナ海を囲い込もうとしたところにあります。国際レベルでの海洋法とは、海洋における自由な航行を約するために締結された条約であり、いわば、“海の交通ルール”の側面があります。つまり、公海や領海等の範囲を定めたり、航行のルールを明記することで、一国による特定海域の囲い込みや外国船舶に対する航行阻害行為を禁じているのです。こうした海洋法の意義に照らしますと、中国の南シナ海における行動は、航行自由の原則に対する挑戦に他なりません。中国が南シナ海の軍事拠点化を進める目的としては、アメリカが秩序を維持している太平洋への自国勢力範囲の拡大、東南アジア諸国に対する軍事的威圧、そして、南シナ海をシーレーンとする諸国に対する経済封鎖手段の獲得などが挙げられています。南シナ海が“中国の海”として閉鎖されれば、当然に、自由貿易も露と消えることでしょう。
中国は、グローバリズムの衣を纏って一帯一路構想の実現に向けて邁進しようとするのでしょうが、南シナ海での行動は、それが本心ではないことを証明しております。仮に、真に開かれた経済圏を標榜するならば、それを法的に保障する海洋法に違反するような行為は決して採らないはずなのです。中国の一帯一路構想、並びに、AIIBが信頼されない理由は、まさに、言葉では開放を唱えながら閉鎖を追及している中国の言行不一致にあると思うのです。
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