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2017-05-22 00:00
グローバル化と政治選択
池尾 愛子
早稲田大学教授
今年2017年のアジア太平洋経済協力(APEC)のホストはベトナム社会主義共和国である。5月16日のハノイの演説で、ホスト国のチャン・ダイ・クアン国家主席が、自由貿易の推進を高らかにうたい、「グローバル化は不可避で後戻りできない」としたことが、APECのウェブサイトで紹介されている(http://www.apec.org/)。また、APEC政策支援ユニット作成の「APEC地域趨勢分析(APEC Regional Trend Analysis)」の2017年5月版では、グローバル化のメリットとデメリットが説かれ、包括性と持続可能性をもたらす政策が必要であるとしている。また、2016年の世界の海外直接投資(FDI)では、APECが世界全体の46.7%を引き付け、アメリカ一国でも26%に上ることが紹介されている。
実際、グローバル化の流れ自体は、貿易・技術進歩が続く限り、止めることはできない。しかし、グローバル化を推進したり、グローバル化の勢いを和らげたりすることはできるであろう。グローバル化とどう向き合うかは政治選択である。地域の経済統合は地域の対外競争力を向上させてきたことは確かである。ただ、多くの技術進歩は民間の努力によってなされてきているが、情報通信技術の飛躍的進歩をもたらしたコンピュータやインターネット関連技術は例外である。アメリカの半導体産業の場合、初期時点では軍事や宇宙開発などの政府調達によって育成されてきており、民生需要が展開するようになった後にも、先端的研究開発では政府調達が重要な役割を果たしてきた。
欧州連合(EU)はグローバル化推進機関である。アジア太平洋地域では、1967年の欧州共同体設立、1968年の欧州共同体内の関税撤廃を見て、国際経済学者の小島清氏が太平洋自由貿易地域(PAFTA)を提案したのである。1967年には、太平洋経済委員会(PBEC)が始まっている。太平洋貿易・開発(PAFTAD)の会議、太平洋経済協力会議(PECC)の開催が、1989年のAPEC誕生につながっていく。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)の設立も1967年である。
欧州の世界におけるプレゼンス(存在感)の向上を掲げて、1993年1月1日までに単一市場を成立させるタイム・テーブルを含む白書を発表したのは、1985~1994年に欧州委員会議長を務めたジャック・ドロール(Jacques Delors)氏であった。彼はそれ以前、フランス社会党の経済顧問を務め、ミッテラン大統領により1981年に財務大臣に任命されていた。それゆえ、彼を社会主義者(socialist)と呼ぶ人たちがいる。共通通貨の提案は、正統派あるいは主流派の経済学者・エコノミストにはできない提案だったと思う。単一通貨圏については、国民通貨への後戻りは難しいので、別の不均衡調整策が必要とされているのかもしれない。それに対して、将来を担う若い人達の交流は学生交流プログラム(1987年開始)により継続し、グローバル化を着実に推進してゆくと思われる。
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