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2017-02-15 00:00
アメリカは何を犠牲にし中国は何を譲ったのか?
倉西 雅子
政治学者
報道に拠りますと、大統領選挙にあって“一つの中国”に異議を唱えていたトランプ大統領は、中国の習近平主席との電話会談で、前言を翻し、この原則を尊重すると伝えたそうです。取引を得意とする実業家としてのトランプ氏の側面が表面化したとも言えますが、両国の間で、一体、どのような取引が成立したのでしょうか。この展開は、既に予測はされていたのですが、両国が何を得て何を犠牲にしたのかを正確に分析することは、日本国、並びに、国際社会にとりまして、今後の運命を左右するほどの極めて重要な作業です。そこで、限られた情報から推測してみますと、両国の間には、以下のような様々な合意のシナリオが考えられます。
第1のシナリオは、アメリカが政治において中国に譲歩する一方で、経済においては利益を得るというものです。つまり、アメリカ側は、“尊重する”という微妙な表現ながらも“一つの中国”を容認する代わりに、中国は、経済において大幅にアメリカに譲歩し、中国製品への高率関税等を認める、あるいは、輸出自粛、為替操作の停止、米製品の輸入拡大要求に応じるなど、目下の懸案となっている対米赤字の削減に努めるというものです。このシナリオで懸念される展開は、台湾が犠牲に供され、中国の軍事圧力がさらに強まることです。一つ間違えますと、武力による台湾併合へのゴー・サインと解釈される恐れもあり、アジア情勢が緊迫化する事態も想定されます。尖閣諸島や沖縄をめぐって軋轢を抱える日本国も頭越しの米中合意の犠牲となる可能性が高まりますので、同盟国と雖も、決して安心はできません。
第2のシナリオは、米中両国共に、政治分野において取引に応じたとする見立てです。この想定では、アメリカが“一つの中国”において譲歩する代わりに、中国に対して、南シナ海からの撤退、あるいは、中東での米国の政策の支持など、政治的措置を求めたとするものです。このシナリオでは、国際法秩序は一先ずは維持されますが、台湾をはじめとした周辺諸国が犠牲に供されるリスクには変わりません。また、これまでの中国の態度を見れば、今般の米中合意も、将来、力関係が逆転した時点で反故にされるでしょうから、一時凌ぎの気休めとなりましょう。
第3のシナリオとしては、米中二国間のみならず、第三国が関与している可能性です。中国への接近を強めているイギリス等が想定されますが、この場合には、対中譲歩というよりも、アメリカの対中政策の見直しによって損失を被る関係第三国への譲歩の色合いが強くなります。対中の譲歩ではない故に、このシナリオでは、中国の領土的野心の的となっている周辺諸国の安全保障上のリスクは格段に高まることでしょう。
以上は、最も蓋然性の高いシナリオですが、これらが入り混じったディーリングであるのかもしれません。何れであっても、大国間の打算的な妥協は、取引条件として犠牲にされる周辺の中小国、並びに、国際秩序に対して深刻な打撃を与えます。同情報の真偽は確認する必要はありますが、共和党であれ民主党であれ、アメリカが、中国と結託して国際法秩序を破壊する結果を招くとしますと、日本国のみならず、国際社会の失望は計り知れないと思うのです。
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