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2017-02-12 00:00
(連載1)日米首脳会談の後に何がくる
尾形 宣夫
ジャーナリスト
日米首脳会談が終わった。 後は、大統領ドナルド・トランプの別荘があるフロリダ・パームビーチで思いっきりゴルフと食事を私的に楽しむだけだ。
それにしても、シナリオどおりとはいえ、演出過剰な首脳会談だった。難民・人権問題で物議を醸し、西側のリーダーとしての米国の存在意義を疑わせる大統領だが、外交面では「四面楚歌」、国内世論を分断させてしまったトランプにとっては、またとない「味方」の到着ということだろう。
想定外の当選直後からトランプとの早期会談に執着した安倍晋三の思いは那辺(なへん)にあるのか分かりにくかった。というより、相手をよく分からないまま、またしても「米国との協調」だけが前面に出た、いかにも安倍らしい米国信奉と誰もが思っただろう。首脳会談でトランプに再確認してもらって一安心した日米同盟だが、訪米前には心配で仕方がなかった太平洋経済連携協定(TPP)離脱や「円安誘導」「自動車輸出超過」など経済問題についてトランプは幸いにも口にしなかったが、TPPに代わる日米の2国間経済協議の言質をしっかりと取られてしまった。
この後始末は同行した財務相の麻生と外相の岸田が負わされることになる。安倍が訪米前に早々と公言してしまった米国での雇用拡大に向けた日本の協力は、さっそくトランプ政権に約束としてリストアップされてしまった。2か月前の日露首脳会談で、北方領土問題の「ほ」の字も出されないまま対ロ8項目の経済協力の具体化を約束してしまったことが、いやでも思い出される。ロシア・プーチン、米・トランプとの、何とも気前のいい安倍の約束だが、その言い訳は何とでも言える。外交の「切り札」が、こうも早々と切られて、国益に沿った外交ができるのだろうか。外交交渉は、事実の「積み重ね」である。だから交渉、折衝は寸分の隙を見せてはならない。「個人的信頼関係」で外交の花が開くなら、こんな楽なことはない。今回の安倍・トランプ会談の成果は、一言でいえば日米の協調を高らかに宣言したということだけで、具体的な中身は何もない。
それにしても解せないのは「日米同盟の深化を再確認した」と、意気揚々と語った安倍の感覚である。
事前に訪日したマティス国防相が、尖閣有事には米安保5条が適用されると明言してくれたと大喜びし、今度はトランプがそれを裏打ちしてくれたと、アベは喜色満面だった。
再三指摘してきたが、米国が見る「尖閣諸島問題」は、「領有権」と「施政権」をはっきり分けている。歴代の米政権は沖縄の施政権返還交渉以来、「領有権」には触れていない。この事実を忘れてはならない。中国は、米国のこの微妙な尖閣への関わりをもちろん承知している。
就任時から大統領令を連発して世界を大騒ぎさせたトランプである。就任前に世界のリーダーの中でいち早くトランプに会った安倍だが、何を言い出すか分からない男だ。政治を事業の「取引」に見立てて、意に沿わないことにはツイッターで罵倒する。政敵に対する暴言は、常識を超える激しさだ。特に選挙期間中から目の敵にしていたマスコミに対しては、口を極めて批判する。親分がこんな調子だから、ホワイトハウスの報道官も同じである。
トランプの大統領就任から3週間も経つ。が、いまだに新政権の閣議すら開かれないホワイトハウスの主と会ったからといって、いつ出来上がるか分からないトランプチームが、日本側に具体的に物申すことはできない。トランプの政治、外交を強いて想像するなら、連発した大統領令を参考に考える以外にない。
ところが大統領令は「入国禁止令」に見られるように連邦裁判所に差し止めを食うなど、政権はスタート早々エンストを起こしてしまった。経済、安全保障、人権、貿易・・・エンジンフル回転ができないトランプ丸は、羅針盤が機能しないまま場当たり的に目視で出航した。安倍が判で押したように語る「個人的な信頼関係」という抽象的なものが、情勢が激変する世界でどんな効用があるというのだろう。魑魅魍魎とした外交に薄っぺらな「精神論」は通用しない。
(つづく)
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