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2016-11-18 00:00
(連載2)アメリカ大統領選挙とTPP交渉とEU
緒方林太郎
衆議院議員(民進党)
トランプ新大統領はそれを知らないはずです。早晩、テキサスの牛肉業界から突き上げられるでしょう。普通に考えると、そこでトランプ新大統領が口にするのは「再交渉」です。牛肉だけの交渉などそもそも成立しないでしょうから、やはり包括的な「再交渉」を言ってくると思うのです。当初はもしかしたら「アメリカだけ9%に下げろ」と言ってくるかもしれませんが、GATTにおける最恵国待遇の原則に反します。最恵国待遇の例外を構成するのは、GATT24条における自由貿易協定でしかありません。なので、これは国内法のみでは対応できず、アメリカンビーフに対して関税を下げたければ、GATT24条の自由貿易協定に依拠せざるを得ません。
ここで心配なのは、安倍総理による第二の「新しい判断」が来そうなことです(つまり、上記の蓋を開け始めるという可能性)。一度前例があるだけにとても気になります。これは絶対にダメです。そういう判断をしないよう、しつこく、しつこく我々野党も政府に圧力を掛けていかなくてはなりません。まずは、「トランプ大統領に何を言われても、絶対に上記の蓋を開けない。『新しい判断』を絶対にやらない」という国家的なコンセンサスを作り上げていく事が必要です。その上で、私がもう一つ提案したいのは、「EUとの自由貿易協定を年内に纏める。そして、来年さっさと国会を通して発効させる」という事です。元々、EUとの交渉は佳境に入って来ています。先日、関係者と話しましたが良い所まで来ていそうです。来年になると、フランスの大統領選挙・国民議会選挙、ドイツの連邦議会選挙等、政治の季節に入ってきます。そこでのコミットメントが難しくなる以上、単にEUとの関係でも今年中に纏めるのが賢明です。
それだけではないのです。EUとの間で交渉を纏めて発効させると、アメリカへの圧力になるのです。農産品で言うと、まずは豚肉でしょう。主たる産地はデンマークです。仮にTPP並みの削減をEUに約束するとしましょう。高級豚肉は関税ゼロですし、低価格帯ものもかなり下がります(制度が難しいので、具体的に言いにくいのですが)。放置していれば、アメリカ産豚肉はデンマーク産に駆逐されていくでしょう。EUとのEPAが纏まると、これまでの豪州とのEPAと相まって、畜産業でもの凄い圧力がアメリカに掛かるという事なんですね。他分野でも同じような例はかなりあります。日本はそれに悶えるアメリカを静かに見ていればいいのです。
ただ、一つ気になる事があります。私の経験からして、EUとの自由貿易交渉というのは、TPPと同じくらいの政治的なコミットメントが必要なはずなのです。EUとやるのと、アメリカとやるのでは、最低でも同じくらいのエネルギーが必要です。実を言うと、EUとやる時はEUという主体とだけ交渉すればいいのではありません。貿易についてはEUに権限が集約されていますが、例えば、投資分野ではEUに権限が集約されていません。なので、そこは各加盟国がうるさい事を行ってきます。最近、EUとカナダのEPA交渉の最終局面で、ベルギーのワロン地域議会が反対した事で大揉めに揉めた事がありました。ベルギーという国の議会ではないのです、ワロン地域の議会です(あの国は諸事情から地方分権が究極まで進んでいるので)。関係する主体が多いだけに、それだけ大変なのです。何が言いたいかというと、対EU交渉専任の国務大臣置いた方がいいんじゃないかな、ということですね。まだ、交渉すべきテーマは残っており、その中には政治の判断が必要な大玉が幾つかあります。長々と書きました。衆議院の審議では、こういう事もやりたかったんですけどね。(おわり)
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