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2016-11-10 00:00
安倍なら“暴走馬”トランプを調教できる
杉浦 正章
政治評論家
知日派の政治学者マイケル・グリーンがかつて「トランプ氏の発言は米政府の政策にはならないと思う。まずトランプ氏に賛同し、政策の実現を手伝う機関が全くない。裁判所、議会、シンクタンク、メディア、軍など、多くの機関が彼を妨害するだろう」と分析していたが、その通りだろう。1977年に大統領になったジミー・カーターも、自らの公約として掲げた在韓米軍の全面撤退を1年半にわたって実行に移そうとしたが、国務・国防両省と議会の反対にあってあきらめている。大統領になったからといって、何でもできるものではない。米国は、これに司法が加わる三権分立の見本のような国である。各国首脳で、この暴れ馬のようなトランプを“調教”できるのは、アジアのみならず、西欧諸国を加えても、首相・安倍晋三が白眉の存在だろう。安倍にはその責任は大きい。その意味で早々に「祝辞」を送ったのは適切であった。ただその中で「トランプ次期大統領は、その類い希(まれ)なる能力により、ビジネスで大きな成功を収められ、米国経済に多大な貢献をされただけでなく、強いリーダーとして米国を導こうとされています」のくだりは、いささか褒めすぎと思えるが、安倍には安倍の理由があるのだろう。つまりトランプは名指しで「安倍は米国経済にとって“殺人者”だ。やつはすごい」 「安倍はキャロライン・ケネディを接待漬けにして、アメリカに打撃を与えた」などと発言している。
加えて安倍はトランプが当選すると思わなかったから、クリントンとだけ9月に会談をしている。ツイッターにはこの祝辞に対して「おぞましい阿諛追従(あゆついしょう)のオンパレード」という批判があるが、膨張政策の中国と、核どう喝の北朝鮮という極東の安保戦略の高見から俯瞰すれば、どうしてもトランプをまず籠絡(ろうらく)する必要があることは自明だ。トランプのような男は、うまくおだてて、自家薬籠中の物にしてしまえばいいのだ。相手は商売人で計算高い。自分の利益にならないと見れば臆面(おくめん)もなく方向転換する。元国務副長官で日本の味方であるアーミテージは「就任最初の年は日本やアジアにとって厳しい年になるかもしれないが、安倍首相であれば日米関係の重要性をトランプ大統領に知らせることができるだろう。首相はアメとムチを使い分けてトランプと対話ができるだろう」と述べているが、その通りだ。その自家薬籠中にする秘策だが、表立ってやる必要はない。グリーンの言う議会や政府機関などに、これまで養ってきた日本の持つ人脈をフルに活用した工作をすぐにでも展開すればよい。
もちろん政権移行チームに対する働きかけが必要なことは言うまでもない。大使館だけでは人員が足りないだろうから、過去に米国に駐在した優秀な外交官や政財界の人脈をフルに活用して、トランプの先手を打つことだ。その先手必勝の対象となる問題を列挙すれば、トランプの無知蒙昧から生じている軍事費分担論、日本の核武装論、TPP(環太平洋経済連携協定)などである。トランプは軍事費分担について「日本が米軍駐留経費の負担を大幅に増やさなければ、在日米軍の撤退を検討する」と言っている。トランプは在日米軍が単に日本防衛だけでなく、米国の世界戦略に不可欠な存在であり、米国を利することを知らない。おまけに米軍の極東展開は5年間に9465億円の「思いやり予算」に加えて、基地周辺対策費などで、年間なんと6710億円に達する日本の負担で成り立っていることを知らない。米国防総省の報告によると、日本の米軍駐留経費の負担率は74・5%で、ドイツの32・6%、韓国の40%と比べて遙かに高い。いまや日本の負担と基地提供なしに米国の世界戦略は成り立たないのだ。無知も甚だしいのである。従って防衛費のさらなる分担要求などにびた一文も応じてはならない。
日本の核保有論について、トランプは「北が核を持っている以上、日本も核を持った方がいい」と発言したが、これも無知蒙昧の極み発言だ。安倍が仮に「それでは検討しましょう」と発言すれば、国務・国防両省は真っ青になる。日本が核大国として登場すれば、真珠湾攻撃をした国だ。いつ核ミサイルが飛んでくるか分からない恐怖感にさらされることになる。北朝鮮の核ミサイルはホワイトハウスを狙っても、キューバに落ちるようなたぐいのものだが、日本のミサイルならホワイトハウスの大統領執務室でもを狙うことができるようになる。要するに、米国の核戦略が根本から変更を迫られることになる。そんなことを米国の官僚組織やシンクタンクが勧めるわけがない。「保有してもいいんでしょうか」と防衛相・稲田朋美あたりにに言わせても面白い。
TPPだが、トランプは「私はTPPから撤退するつもりだ。TPPによってアメリカの製造業は致命的な打撃を受ける」と発言した。そうだろうか。そもそもTPPを提案したのは米国ではないか。自由貿易によるメリットは米国にとっても計り知れないものがあり、米国の製造業にとってもチャンスとなり得るのだ。安倍が、11月10日に衆院を通過させる決断をしたのは正解であり、成立のめどが立つことになる。おそらく日本先行の展開はオバマとの“密約”が背景にあると思うが、今度はオバマに実行を堂々と迫る必要がある。しかし、現実的にはオバマが議会で批准させることは難しいし、批准してもトランプは拒否権を行使するだろう。問題はその後だ。これで諦めてはならない。米国抜きでもTPPを発効させるリーダーシップを安倍はその他の加盟国に発揮するべきだろう。規約を変えて、とりあえず発効させて、トランプがTPPの必要性に気付くのを待てばよい。見切り発車だ。70歳のトランプが大統領職の激務を2期勤められるかどうかという問題がある。国内の対立は激しく、反トランプのメデイアが暴くウオーターゲート事件の二の舞のような事件もあり得る。敵を作りすぎたトランプは4年待たずに、不慮の事故の可能性も除外できない。従ってこのTPPの枠組みは、安倍のイニシアチブで何らかの形で生かし続けることが必要だろう。おそらくトランプは1年もたてば「反日」の旗をまず降ろさざるを得なくなるだろう。
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