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2016-11-09 00:00
クリントンのメール問題
川上 高司
拓殖大学教授
クリントンのメール問題が再燃した。FBIのコーミー長官が、新たなメールを発見し調査したいと議会に令状の申請をしたのである。これを受けて報道直後のワシントンポスト・NBCニュースの世論調査ではクリントン候補とトランプ候補の支持率の差が1%にまで縮まった。クリントンが国務長官時代に仕事上のメールのやりとりを個人のアカウントで行い、それが機密漏洩になるのではないかとFBIから調査を受けていた。2016年7月にFBIは「クリントン氏は軽率だったが、違法性はない」と決着をつけた。だがこの問題はクリントン氏に「信頼できない」というイメージを固定させ、支持が伸びない原因となっている。
新たなメールが発覚したいきさつは、そもそも元下院議員であったウイナー氏が別件でFBIの調査を受けており、捜査当局がウイナーのパソコンを調べていたら妻のユマ・アベディンとクリントンとの間で交わされたメールがウイナーのメールの中に混じっていたことを発見した。アベディンは国務長官時代のクリントンの側近であり、メールのやりとりは不思議ではない。ただ、それがなぜ夫のパソコンから出てきたのかは本人も「わからない」と証言している。そもそもクリントンのメール問題が浮上したとき、彼女も捜査対象となってすべての端末を提出して捜査されているのである。しかも、ウイナーの件の捜査チームはこの紛れ込んだメールはかなり以前に把握していたがコーミー長官の耳に入ったのは最近である。コーミー長官としては新たに見つかった証拠を捜査しないわけにはいなかい。そこで議会に令状を申請したのだが、それらの証拠がどういうものなのか、そもそも証拠なのかどうか、またその件数すらわかっていないという。あまりにも漠然としすぎているのである。
コーミー長官としてはウイナー事件のほうでこのメール問題はいずれ公になるが大統領選挙後であったらならば、「隠蔽した」と言われかねない。クリントンが当選した場合は弾劾裁判ということにもなりかねない。捜査当局として政治から距離を置き証拠を発見した以上捜査するだけであるというきわめて職務に忠実に行動しただけかもしれないが、アメリカだけでなく世界をも左右するアメリカ大統領選挙直前のスキャンダルなだけに、必要以上に世間を騒がしてしまった。
このメール問題再燃に関してトランプは「ウォーターゲート事件より悪質」とさっそく吠えているが、ワシントン・ポストとNBCニュースの10月27日の世論調査では、大統領選挙での投票について63%の有権者が「影響ない」と答えている。期日前投票も進んでいてすでにクリントンに投票した有権者も少なくないだろう。だからといって、クリントンが圧倒的な熱い支持を受けているわけではない。どちらも嫌だがクリントンのほうがまし、という大統領選挙史上まれに見るネガティブな選挙であることは変わらない。まさに究極の選択とも言えよう。
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