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2016-08-17 00:00
EUは“パンとサーカス”になる?
倉西 雅子
政治学者
国民投票によるイギリスのEU離脱の決定を受け、EU側においても、将来ヴィジョンに関する議論が起きてきているようです。その一つが、財政統合の強化なのですが、果たしてこの政策は、より善きEUを実現する処方箋となるのでしょうか。
イギリスのEU離脱の要因として指摘されているのは、欧州市場の恩恵が一般国民が多数を占める中間層には及ばず、逆に、貧富の格差を拡大させているというものです。中間層からみますと、EUを枠組みとした“もの、人、サービス、資本”の自由移動は、大量の移民流入をもたらし、雇用機会を奪われる上に、賃金の低下をももたらすのですから、歓迎できたものではありませんでした。しかも、社会・文化面でも軋轢が生じ、治安も悪化するとなりますと、なおさらのことです。
こうした問題を解決するために提案されているのが、富裕層に集中した富を、EUの財政統合を強化することで、中間層、否、今や中間層からも脱落しそうな層に広く再分配しようとする案です。これまで、EUの再分配政策は、主として財政状況が厳しい南欧や中東欧諸国に対して実施されてきましたが、今後は、EU内の“先進国”の中間層も対象となる可能性も浮上しているのです。しかしながら、この方法は、必ずしもEU経済の調和のとれた成長や真の豊かさを約束しないように思えます。何故ならば、今後とも、EUが、無制限な自由化一辺倒の原則を貫くならば、やがては為政者が貧困化した市民大衆に対して“パンとサーカス”を提供した古代ローマ帝国と同じ道を歩むと予測されるからです。古代ローマ帝国では、エジプトなど属州とした地域から大量に安価な穀物が流入したため、ローマ市民の中核であった自営農民層が壊滅してしまいました。
ヨーロッパ統合の夢は、古代ローマ帝国へのノスタルジーとしても説明されますが、1600年余りの時を経て、ローマ帝国を腐敗と堕落へと導いた、悪名高い“パンとサーカス”が再来するのでは、皮肉な結果としか言いようがありません。そしてこの憂慮は、EUに限らず、新自由主義が吹き荒れる全ての諸国に共通した問題ではないかと思うのです。
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