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2016-07-24 00:00
国際社会科学事典について
池尾 愛子
早稲田大学教授
1930-1935年に、米コロンビア大学の経済学者エドウィン・セリグマン総編集の『社会科学事典』(全15巻)がニューヨーク・マクミラン社から出版された。ヨーロッパの社会科学者達も編集委員会に参画して国際プロジェクトとなっていた。日本の政治家を含めて日本に関する項目が印象に残る程度あったのは、米エール大学正教授の朝河貫一(1873-1948)の存在と貢献が大きかったからと思われる。彼はアメリカの大学で正教授になった最初の日本人とされる。
朝河自身、封建制度の国際比較研究の成果の一部を「封建制度:日本」と題する事典項目で活用した。「封建制度」の項目を読み通すと、封建制度がヨーロッパと日本には存在したが、アメリカと中国には存在しなかったことが分かる。社会科学に関しても国際学術比較の観点から描かれ、戸田貞三(社会学者・東京帝国大学)が「日本」の項目を書き、経済学者としては福澤諭吉、天野為之、和田垣謙三、金井延、河上肇を紹介した。朝河が経済学者アーヴィング・フィッシャー(エール大学、エコノメトリック・ソサエティ初代会長)とも親しかったため、第二次大戦終結後、早い時期に、日米の会員の相互交流が企画され実現したといってよさそうである。
戦中・戦後の学術研究の変化を取り入れた大幅な改訂版が、1968年に、社会学者デイヴィッド・シルス総編集により『国際社会科学事典』(全19巻)と題名を少し改めて出版された。想定読者層は社会科学者を志す大学院生や大学上級生であった。計量分析、統計分析、数理分析に関する項目が目立って増加した。そして、日本関連項目が減少し、日本の影はずいぶん薄まることになった。
2008年に、経済学史家ウィリアム・ダリティ総編集の『国際社会科学事典』第2版(全9巻)が出た。わかりやすくして、高校生でも読める事典の作成を目指したという話を聞き及んでいる。その結果、事典項目の叙述はステレオタイプになり、かつ巻数が減って、日本が消滅してしまったようである。2008年版は、1968年版の改訂版という位置づけにはなっている。しかし、想定読者層が異なるため、1968年版は図書館開架書棚で生き残っているようである。次の事典改訂の時には日本の項目はどうなるだろう。日本研究の一層の海外発信が期待されるはずである。
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